(2) 講演「共創型の郊外住宅地再生をめざして:東大都市工学科演習の成果物に見るいくつかのヒント」
東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻まちづくり研究室博士課程 中川真輝氏
- 本発表では、東京大学工学部都市工学科が、郊外市街地を対象に取り組んできた10年間の演習の成果をご紹介させていただきます。
- こま武蔵台を含めて、日本には計画的に開発された郊外住宅地が数多く存在しております。計画市街地の理論は日本国内で独自に生まれたものではなく、20世紀のイギリスやアメリカで、田園都市論や近隣住居論と呼ばれるような都市計画の理論が誕生し、日本の都市計画はそれらを輸入して構築されてきました。既存の都市から離れたところにユートピアとして暮らしやすい都市やまちを新たにつくるための住宅、公園、道路といった空間デザインの理論でした。戦後の日本においては、人口増加と大都市の人口集中の中でこうした海外の理論を参照しながら数多くの郊外住宅地が造成されました。そして建築協定や地区計画と呼ばれるような様々なまちづくりのルールを駆使して住宅地を住民自らがマネジメントする仕組みがつくられました。そして現在、住宅地の創生から相当の年月が経ち、居住者やインフラの高齢化の問題への対処が求められています。日本各地で住宅地再生や団地再生の新たな取り組みが起こり始めている段階です。
- こま武蔵台における人口は1995年以降減少しつづけています。一方で、世帯数の減少はそれほど起きません。これは団地造成時期に住み始めたファミリーで、子供世代が大学進学や就職などでまちを離れ、親世代が残ったためと考えられます。しかしながら今後は、親世代の高齢化が進み、寿命を迎えることで、世帯数の減少をすることが見込まれています。こうした話は、ネガティブにとらえられがちですが、協創型の街づくりという発想で街をつくり変える大きなチャンスとしてとらえたいと考えています。
- 協創型の街づくりは、未確定の新しい考え方ではありますが、マルチセクターの関与が大事なポイントになります。これは行政と住民に加えて、企業や福祉セクターといった様々な主体がまちづくりに加わっていく考え方です。郊外住宅地ではこのような協創型のまちづくりの発想に基づき、暮らしやすい街を経済的な動きの中で構築していくことが重要となっています。
- 具体的にどのようなまちづくりの方法が考えられるのかの答えは未だ無い中で、東京大学都市工学科では演習の成果を題材にして、こま武蔵台におけるまちづくりを皆さまと一緒に考えていきたいと考えています。
- 東京大学都市工学科では演習として学生が2017年から10年間の学生でグループをつくり、こま武蔵台における新しいまちのあり方を検討してまいりました。その1つは空き家調査です。学生がこま武蔵台を歩いての目視での調査であり、正確性には課題がありますが、この調査の結果を見るとこま武蔵台の空き家率は10%以下で大きな問題になっていないことが見込まれます。しかし、先ほど申し上げたように世帯数が減少していくことを考えると、予防的な街づくりの取組が必要と考えられます。
- 学生による10年間の提案では、空き家・空き地への対応、自動車に頼らず移動できる街づくり、新規居住者へのプロモーション、住環境における緑の創出が共通してみられました。また、そうした取組みがどこの空間で行われるかについて、団地内のタウンハウス、ショッピングセンター、潜在している空き家・空き地が考えられました。
- 2025年度には空き家管理団体を設置してはどうかというアイデアが提案されました。つまり、そうした団体の活動を通じて住宅や公園といったストックをうまく管理し、街の空間も柔軟にデザインしていこうという考え方です。空き家は時間の流れの中で、地域の中に自然的・分散的に生まれるものです。もちろん行政の方でも空き家バンクと呼ばれるような空き家対策の手法を運用しているのですが、もっとうまく空き家を管理できるような団体を、地域の中につくっていく発想です。
- 2024年度には、身近にある小さな空間を使って、街を大きく変えていこうということが提案されました。一つ目は各住宅の庭の緑を利用していき街全体として緑を増やしていこうという考え方です。住宅地における緑の存在は住民の健康やウェル・ビーングに寄与するという考え方に基づく発想です。二つ目はDIYの考え方で各住宅の敷地の中で趣味の空間をつくっていくということです。郊外住宅地はともすると似たような景色が街中に広がるような傾向がありますが、そうした中でスポット的にでも趣味の空間をつくっていくことで、まち全体が楽しくなれるようにという考え方です。三つ目はサロンですね。これも同じく郊外住宅地という単一的になりがちな街の中で、住民が楽しく過ごせるような場所をつくっていこうというアイデアです。こうした場所は、例えばまずショッピングセンターの中に見られますが、さらに空き家を使ってサロンを増やしていけばどうかというアイデアです。
- 最後に紹介するのが2017年度の成果です。これは身近なインフラをしっかりとつくり変えていこうというアイデアです。例えば公園をうまく活用していこうということです。活用方法としては公園内に市民農園やシェア農園で売れるようなものをつくっていったらどうかということを提案しています。また例えばバス停に屋根や椅子を設置することで、住民の皆さんが落ち着いてバスを待てるようになるかもしれません。こうした小さな取り組みから住民の住みやすさを少しずつでも向上していけないかということを提案しています。