講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』
吉原勝己さん「不動産経営改善で暇になった大家はまちづくりへ向かう−吉原住宅/スペースRデザイン−」
吉原勝己さん
製薬会社勤務を経て、家業の貸しビル管理会社を引き継ぐ。現在は吉原住宅有限会社と株式会社スペースRデザインの代表取締役。著書に「新版 エンジョイ、レトロビル!未来のビンテージビルを創る」など。



1.貸しビル管理の家業を引き継ぐ
2.リノベーションミュージアムの始まり
3.山王マンションを巡る@1階のテナントスペース
4.山王マンションを巡るAリノベーション住戸
5.福岡県に広がる吉原住宅の取り組み
6.スペースRデザインの仕事
7.大家業を養成する
8.まちづくりで大切なことは覚悟して表へ出ること
9.まとめ



1.貸しビル管理の家業を引き継ぐ
松村:  住んでみたい都道府県ランキングのNo.1などに度々選ばれるように、福岡県は人気の高いところです。しかし、空室が目立つ賃貸マンションや賃貸オフィスビルも少なからず存在します。そうした福岡で挑戦的な大家業を営む「吉原住宅」の取り組みを伺いたいと思います。吉原さんはこの会社の2代目だそうですね。
吉原:  吉原住宅は1965年に父が創業した貸しビル管理会社です。2008年からは、リノベーション事業を独立させた「スペースRデザイン」の代表も務めています。私は大学を卒業してから製薬会社で研究に携わっていましたが、2000年に家業を継ぐべく吉原住宅に入社しました。その時点で吉原住宅が保有していた建物は、築20年ほどが二つで、残りは築30年ほどと40年ほどが一つずつという状況でした。
問題だったのは、建物が古いことよりも、全く危機感のない経営が行われていたことでした。入社してすぐ事業収支を計算したところ、売上激減の過程にあり6年後には倒産の見通しでした。当時は、入居者がデリヘルをやったりホームレスの人たちが出入りする建物もあり、家賃の滞納総額が約2000万円に膨れ上がって、入居率もどんどん下がっていました。しかし、建替えると大きな借金を抱えることになり、新築物件と競合することにもなります。吉原住宅の貸しビルは、それぞれまちの景観を形づくってきた建物です。取り壊すと、コミュニティの核も壊してしまうように思えて、絶望的に事業継承の準備がないながらも、なんとかしなければと考えました。





1  2  3  4  5  6  7  8  9  次ページへ  


ライフスタイルとすまいTOP