講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


7. 大家業を養成する
鈴木:  どうしてアクティブな入居者が集まってきたのでしょうか。入居者の紹介で芋づる式に集まったり、リノベーションミュージアムのブランドが引き寄せたりと、複数の理由があるのかもしれませんが…。
吉原:  私と会社の話を少ししたいと思います。前職の製薬会社の仕事には満足していたんですが、父から大家業を引き継ぐことになりました。その時、これからは私自身が楽しいことをする生き方をしようと決めたんです。仕事の打診が10件あったとすると、オーナーや物件を選んで一つか二つしか引き受けていないし、取り組む内容も楽しことしかしていません。
社員もそれを分かってくれて、そういうスタンスで活動しています。ですから、もはや私の主導というより、社員主導で毎週イベントをやっていたりします。そうやって回数を重ねるうちに自然とネットワークができて、気付くと老朽物件でお祭りをやっているような会社になっていました。
松村:  賃貸用建物のコンサルティング活動を博多周辺から始め、現在は久留米や大牟田でも展開しているとのことです。他の地域では博多とは勝手が違ったりしませんか。
吉原:  建物に対する具体的な取り組みは、その地域の人がやるべきだと思っています。長野でコンサルティングの仕事をさせてもらっていますが、私たちは家庭教師のような形で関わっています。久留米だったら半田ブラザーズがやってくれています。そうすることで、その地域の人たちでしかできないような取り組みが生まれてくるんですね。時間をかけて大家業のプレーヤーを養成してきた感じです。例えるならAKBの秋元さんのような立ち位置かもしれませんが、将来的にはみんなに独り立ちして欲しいですね。
大牟田に面白い事例があります。飲み屋街には飲食店をテナントにしたビルがありますよね。雑居ビルと呼ばれたりしますが、そのエリアが寂れると空室だらけになってしまいます。そうしたビルを市民と一緒にリノベーションして、子供が遊びに来るようなビルに変えながら満室化させてしまった冨山さんというオーナーがいます。彼を見ていて気付いたことですが、自分の物件がうまくいくと建物オーナーは心に余裕が生まれ、建物と社会の関係を考えられるようになります。言わば、暇になってまちづくりにまで活動が広がるんです。持ちビルが建っているエリアの人気が出ないと、賃料単価は上がりませんからね(笑い)。
そうすると、賃貸ビルの大家業というのは社会問題解決ビジネスに直結していることになります。数年前から消滅可能性都市という言葉が使われるようになりましたが、冨山さんは「消滅するかしないかは、国が決めることではなく、そこに住み、そこで働き、そこで生きている人が決めるべきこと」と言っています。このような社会的使命感の醸成がこれからの大家業を変えると思います。



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