講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


6. スペースRデザインの仕事
松村:  お話を聞いていると、移住や団地買い取りの話まで出てきて、吉原さんのお仕事は建物のリノベーションの先に行っていると思いました。改めて伺いますが、これまではどういう仕事をされてきたのでしょうか。
吉原:  スペースRデザインは、専ら建物オーナーのコンサルティングをしています。オーナーさんの物件は失敗が許されないので、吉原住宅の自社ビル4棟を実験台として自由にのびのびと色々なことをやっているわけです(笑い)。
福岡のオーナーさんの物件は、これまで30棟近く再生してきました。私たちのお客さんには特徴があって、代々の地主なんですね。大家業としては2代目や3代目で、一族の資産として建物をホールドしなきゃいけない立場にあります。
松村:  そうしたコンサル業と建物管理業は別物だと思いますが、そもそも賃貸オーナーに対するコンサル業という業種が一般に存在するものなんでしょうか。
吉原:  スペースRデザインのようなコンサルティングをする会社は、珍しいと思います。経年不動産の経営再生を行う私たちはリノベーション会社ではありませんし、リノベーションが切り札であるとも思っていません。物件はすごくいいのに、仲介会社の仕掛けがうまくないから入居率が低い場合も結構あります。そのような時は、管理会社や仲介会社を変えることで対応できます。私たちは自社の建物経営を通して、賃貸物件の経営を悪化させる要因を総合的に知っているので、弱点になっている要因を見つけて、そこを修正していくわけです。
リノベーションという手段を使うのは、住戸に競争力がないときです。この時はブランディングが必要なので、最初のリノベーションではあえて住戸をスケルトンにしてしまって、極端なデザインを二つくらい作ります。すると近隣の仲介会社も興味を持ち出すんです。スペースRデザインの仕事は、30年間のスパンでどれだけ収益を上げられるかを考えることなので、どういうリノベーションをどの順番で持ってくるのか再生ストーリーに位置づけなら取り組んでいきます。
鈴木:  住戸のリノベーションをするときに共用部も変えたりしているのですか。
吉原:  共用部は変えないことが多いですね。変に新しくするとかえって価値を落としてしまいます。古さと新しさのギャップ感が大事です。
もっとも、山王マンションに取り組むときには、築100年まで経営していけるような高い利回りを目指し、共用竪管の新設を先行して行いました。実際、リノベーションする度に住戸跨ぎ配管を解消して行ったので、水漏れトラブルもなくなりました。
松村:  引き継いだ時には築40年のボロボロの建物だったわけですよね。その建物から高い収益を60年間得られるようにしようと発想したところがすごいですね。





前ページへ  1  2  3  4  5  6  7  8  9  次ページへ  


ライフスタイルとすまいTOP