講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


2.食を介した家族のコミュニケーション


 5.家事参加の地域性など

一般論としては以上になりますが、最後に興味深い例を3つほど紹介したいと思います。まず秋田県の事例です。こちらはご夫婦とも公務員のご家庭です。7時半に出勤すると同時に近居の義理のお母さんがやってきて、ほとんどの家事をこなしています。

休日になると長男はおやつ作りをやりたがるそうです。母親には男の子でもそうしたことのできる子供にしたいという願望があるようです。しかし、祖母が家にいるときはキッチンに入らない。祖父母の世代には男の子は台所に入ってはいけないという考え方があるので、それに子ども自身が気付いて気兼ねしているのです。社会文化的側面が子どもの家事参加を阻害している事例でした。



次は奈良県の事例です。奥様が司会業をされていて、娘さんが2人の家庭です。キッチンでは子供の宿題ができるように照明器具に配慮がしてあります。また、ダイニングにはパソコンがあり、キッチンは、家事作業をしながら読み方の判らない言葉をパソコンで調べるなど、奥様自身のスキルアップの場でもあります。宿題をしている娘さんはお母さんがパソコンで調べ物をしている姿をそれとなく見ることで、お母さんの職業意識が娘に伝わる空間になっています。



最後の事例は長野県の「囲炉裏のある家」です。夫の視点による子供のコミュニケーションや食空間について触れてみたいと思います。旦那様は銀行マンで帰る時間が遅いので、平日は家事をしたり子供としゃべったりすることはできません。その分を取り戻すように、週末ごとに率先して家事を担当されています。魚を釣るのが大好きな方なので、囲炉裏で自分の釣った魚を焼くというのが夢でした。「平日には家族の関わりが希薄なので休日に凝縮したいのです」とか「火には家族を集める力がありますね。ここでは娘たちが僕にいろんな話をしてくれるのですよ。」とそんな話をしてくれました。この家では毎週末鍋料理なのだそうです。娘さんは2人いて、囲炉裏での料理に奮闘するお父様の姿を非常に好意的に捉えていらっしゃいました。平日は見せられないお父さんの姿を休日に見せるという点で囲炉裏というものが非常に寄与している事例でした。



子供の成長過程と食空間のあり方というものを見てみますと、物理的な環境に加え、人的環境や文化的環境が複雑に絡み合いながら食空間というものが形成されていることがわかります。住宅メーカーとしては、商品を提供するだけではなく、住まい手の成長に伴うフォローにも踏み込んだ提案が必要になってくるのではないかと感じています。



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