講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


2.大阪編


2.住宅内部のプライバシー
鈴木 皆さんのコメントを聞いていると、日本の住宅に対してプライバシーの問題を共通に感じているようですね。
そもそも日本の住宅の壁がとても薄くて、隣の音が聞こえるのは問題ですよ。友達の家に行った時のことですが、そこの子供が走ったりしていると、隣の住人からクレームがあって、結局トラブルになったことがありました。
ソムチット 私は三人家族で暮らしていますが、家の中にいて自分の子供がたてる音さえうるさく感じます。それから、部屋に錠が付いていないことにも不便を感じますね。日本の住宅には玄関とトイレにしか錠がついていない。例えば、友達の家に泊まるときに、部屋を施錠したくてもできません。私の国ではドアには必ず錠が付いています。
それから、間取りにも問題があると思います。私が今住んでいる家では、玄関の隣にトイレがある。玄関ドアを開けたら最初に見えるのがトイレの扉ですよ。ですから、水を流したら、外の人に聞こえてしまう。ひどいものです。ラオスでは家族用トイレは必ず家の一番奥の方にありますし、お客さん用のトイレはリビングの隣に設置します。いずれにせよ、玄関近くにはありません。それと、キッチンも玄関を入ったらすぐの位置にありますね。
佐藤 その点は僕も同感です。10才くらいまで戸建住宅しか知らなかったのですが、集合住宅の社宅に住む友達ができて遊びに行ったんです。そうしたら、玄関ドアを開けたらキッチンがある。何か見てはいけないものを見てしまったような気がして、びっくりしたことをよく覚えています。
ソムチット ラオスでもキッチンはお客さんにはあまり見せないものですよ。
中国ではキッチンに必ずドアがありますね。中華料理を作るときには煙やにおいがたくさん出ますから。
ソムチット ラオスもそうです。キッチンとその他の部屋の間にはある程度の距離を設けるべきだと思いますね。
鈴木 日本の家にはプライバシーがないとヨーロッパ人は感じるようですが、アジアの人が見てもそう思いますか?
ソムチット 日本の住宅は家族だけで生活するには十分な広さがあるかもしれませんが、友人が遊びに来たら少し狭く感じるのではないでしょうか。
鈴木 言い訳かもしれませんが、日本人は人の気配を感じながら住むことを重視するところがあると思うんです。例えば、東孝光さんの「塔の家」では一つのドアもない。そうすることで、誰が何をしているのかがなんとなく分かるようにしておいて、それぞれに配慮しながら住んでいる。つまり、全てを物理的に仕切るのではなく、マナーやbehaviorでコントロールしようという考え方だというわけです。説得力ないでしょうか。
佐藤 日本では建築学科の教育もそうした考え方を重んじていますよね。住宅の課題などで完全に遮断すると良い成績が付かない。でも、ふすまや障子などを使って、見えないけれど影や音などによって人の存在を感知できます、なんて説明すると良い点が取れる(笑い)。
タレル 日本では子供が結婚したら、別の家に住むのが一般的ですよね。でも、モロッコやチュニジアでは、大学に行く時以外は、家族がみんな一緒に生活します。家族構成が変っても、そのまま住み続けるのは普通です。だから、それぞれの部屋にプライバシーを確保することが大切なんです。
日本では20歳になったら一人暮らしをするのが一般的のようですが、韓国では結婚するまでは家族と一緒に住むのが当たり前です。子供でも成人になれば自分のプライバシーがあるので、どの部屋も施錠できます。ですから、家の中には、それぞれ一人一人の空間と、リビングを中心としたパブリックスペースのような空間があります。
私が昔住んでいたHost Familyの家のことですが、部屋の中に移動式壁が設けられていたんですね。大空間を少し小さく分けて親密な空間にも変えることができる。それはとてもいいと思いました。日本では今の新しい住宅にはこういう設えも多いんですよね。



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