郊外住宅地再生フォーラム2022
暮らしを豊かにするプロジェクトデザインとマネジメント


(3) 第1部報告者を交えた議論

小泉教授:ただ今先生方から、郊外住宅地再生のビジョンと同時に、プロジェクトをどういうテーマで誰が担っていくか、どのようにマネジメントするかという問題提起がなされました。第1部で報告された方々からのご意見などよろしくお願いいたします。
瓜坂氏:園田先生のお話に賛同いたします。上郷ネオポリスの初期に居住を始めた第1世代の子ども世帯が50代60代になってきていて、そうした第2世代が戻ってくるということがないと、住宅循環は進まないと考えています。また、第1世代がまちに安心して定着するためには介護施設が必須であり、サービスしていただく企業を誘致するよう動いています。既存住民の中にはまちづくりに無関心の方々がおられますが、我々が関わる以前からまちづくりに熱心に取り組んできた方々もおられます。まちづくりに熱意のある方々の力をお借りすること、そして頑張った方へ対価が支払われる仕組みづくりに、我々もお力添いできればと考えています。
小泉教授:園田先生の指摘された多死社会に備える上で、もうあまり時間のない状況だと思います。いままでは、空き家となっているのか、どうもよく分からない住宅が散見される状況でしたが、それがこれから膨大に発生することをどう考えるのかが検討課題になります。新住民に関しては、上郷ネオポリスで、もともと周辺に住んでおられて上郷ネオポリスに前から住みたかったと移り住んで来られた方がおられます。またサーフィンを趣味としている人も移り住んで来られています。このように地域ブランドや地域資源が新住民の呼び込みにつながっています。
山根氏:先生方のお話で、“緑”というキーワードが何度も出てきていました。住まいやまちの再生において、緑を増やし、気候変動対策を進めることへの、地域住民の皆様の関心は高く、我々企業にとっても重要なテーマです。高齢化対策と同時に、緑を活かしたまちづくりも大切と考えています。
小泉教授:こま武蔵台について、空き家をリノベーションしても、周辺にあまり効果波及していないという課題をお話いただきました。何が足りないから住み替えが促進できていない、住宅への投資が起きないといった点について、現場で何か理解されていることがあればご教示ください。
山根氏:住宅に近いところで利便性を高めていくことの難しさが、こま武蔵台にはあると思います。郊外住宅地として再生する中で、緑がとても豊かといった特長に対する外部からの評価いただける機会があると、全体的にwin-winの関係をつくることができるのではと考えています。
石塚氏:新百合ヶ丘は、高齢化がとても進んでいる状況ではまだありませんが、高齢化が進む前に、子育て世帯にいかに住んでもらえるかが重要と考えられます。エッジデザインなどで住み続けられる環境をつくっていくことと、地域資源を活用していくことがポイントと考えております。新百合ヶ丘の周辺には畑などの緑が多く、住宅地内には小公園が多く整備されています。それらをいかに魅力的なものに仕立てていくか。併せて貸家やアパートの多い地区ですので、若い人が住んでいくまちをつくっていくということが大事になってきます。貸家・アパートは我々にとって事業として参入やすいものなので、再生のきっかけになってくるのかなと考えています。
李助教:居住者のライフステージの多様さをサポートする住まいの多様さが、魅力的な住宅地に必要と考えられます。郊外住宅地は画一的に整備されてきた面がありますが、高齢者が安心して暮らせる住まい、あるいは若者が借りやすい価格の住まいやシェアハウスといった多様性をいかに実現するかが重要と考えられます。園田先生が多死社会ということを述べられていましたが、郊外住宅地における住宅循環や住宅密度変化について何かイメージされているものはありますか。
園田氏:すべての郊外住宅地は残れないと思います。郊外住宅地はクラスター状に開発されたのですが、2030年以降、クラスター単位で残るところと、クラスター単位で消えるところがあるということが私のイメージです。子育てなどが成功し、集合的に住んだ方がよいクラスターは密度がある程度維持されると思います。公園緑地についても、今のままではうまくマネジメントができないので、魅力的なものとしていくためのデザインのやり直しが必要と考えられます。