郊外住宅地再生フォーラム2022
暮らしを豊かにするプロジェクトデザインとマネジメント
(3) こま武蔵台 (埼玉県日高市) の取組み ((株)東急不動産R&Dセンター 山根氏)
1) まちの課題
こま武蔵台は、1977年に東急不動産が販売開始した、人口およそ4,700人、世帯数およそ2,200世帯の住宅地です。
こま武蔵台が抱えている問題として、5点をお話いたします。まず少子高齢化が進展しています。高齢化率は2020年に50%を超え、年齢層は70代がボリュームゾーンとなっており、若年人口減少と後期高齢者の増加が進んでいます。2点目は空き家増加です。空き家率は7%台で、入居開始の早い1〜5丁目で比率が高くなっています。特にタウンハウスでの空室率が高くなっています。3点目はセンター施設の賑わい減少です。2008年にはセンター施設からメインのスーパーが撤退しました。2013年にはセンター施設内に「朝採れファーム高麗郷」がオープンしましたが、センター施設内の複数の店舗閉鎖が続いています。4点目は交通利便性の低下です。2007年に日高市循環バスが廃止され、2015年には飯能駅行きのバス便が段階的に減便されています。団地内は高低差が60mあり、坂の多いまちです。こうした状況の中で2011年に近傍スーパーの送迎サービス、2017年に自治会による住民同士の移送サービスが開始されました。その他、「こま武蔵台福祉ネット」によるサポートも行われています。5つ目は小中学校の施設一体化です。日高市の公共施設再編計画で武蔵台中学校は武蔵台小学校に移転の予定ですが、その結果、築約30年の校舎をどのように活用するかが課題となっています。
2) これまでの活動
2015年には弊社と地域が共同研究契約を結び、住民意識調査アンケート実施しました。2018年には「こま武蔵台シンポジウム『郊外住宅地の今・将来』」を開催しました。
そしてこの3年間、住民の方々を中心に、産官学連携による様々な実証が行われました。
2019年にはテストケースとして、空き家活用リノベーションを実施しました。「子どもとつながる、子どもがつなげる家」をコンセプトに、学生提案により、若い世帯が住みやすく、周辺交流に結び付くリノベーションを実施しました。現在、若いご夫妻が住んでおられます。
2020年には、コロナ禍で在宅勤務が増え、環境の良い郊外住宅地が見直される中で、センター施設の空き店舗を改装し、リモートワーク可能なコワーキングプレイスを設置しました。この郊外型ワーキングプライスは今年5月からNPO法人げんきネット武蔵台による運営管理が行われ、利用しやすい料金への変更や、週末の勉強会など柔軟な利用が進められています。
2020年にはセンター施設における放課後の遊び場づくり(コマキチ)がスタートしました。また、「KOMAKICHI・こども屋台」として、子ども達が企画を考え、自分達でつくる屋台を出店しています。
2021年には「げんきネット」(NPO法人げんきネット武蔵台) が設立されました。武蔵台を中核にした地域の活性化を考え、必要とする活動・事業を行い、より元気な武蔵台地域にすることを目的とするものです。主な活動は、地域コミュニティスペース (レンタルルーム、コワーキングプレイス) の運営受託、講演会やイベント開催、地域ふれあい促進事業、マルシェ・バザールの企画・運営・出展事業、空き家・駐車場の活用・管理・活動企画開催、調査研究事業などです。
「福祉ネット」(こま武蔵台福祉ネット) では、日高市社会福祉協議会から委託を受ける形で、住民参加の「武蔵台地域おたすけ隊」として活動しています。具体的な活動内容は、車による付き添い支援 (買い物・通院等)、室内掃除、片付け、庭の草取り、買い物代行、ゴミ出し処分などです。さらに福祉ネットと地元商店会が中心になったマルシェが月2回開催されています。
2021年には国土技術政策総合研究所により、移動環境向上に関する実証として、グリーンスローモビリティの運行実験がこれまで2回行われました、2回目の実証は、地域の実情にあわせ、1回目の実証から運行ルートや地域主体の運営体制等に変更の上実施しました。また、TQコネクト「あんしんタブレット」の活用と連動しました。1回目の実証では試乗目的が最多でしたが、2回目では買い物目的が最多になりました。高齢になるほど買い物・通院の割合が増加し、外出のきっかけになったと、実用化を望む声が多数あげられました。
3) 3年間の活動から見えてきた課題
空き家リノベーション:注目度は高かったものの、周辺住宅地への影響・効果は限定的でした。地区計画により優れたまちなみが形成されてまいりましたが、地区課題変化に対するズレがある可能性があります。持続的な取組とするための強力なリーダーシップや支援制度の必要性が考えられます。
郊外型ワーキングプレイス:生活利便施設として、賑わいの創出や、勉強会等で集まれる場所として評価されています。空きスペースを活かした、中長期的に運用可能な体制構築の必要性が考えられます。
移動環境向上に関する実証:住民の期待がとても高いのですが、実装するにあたって、運転手確保、費用負担や、他の既存移動手段との調整等が課題と考えられます。
以上のように、将来的な時間の経過による課題の顕在化に先んじて、地域の自立的な課題解決の取組みをサポートする動きが重要と考えられます。
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