(7) 郊外住宅地の俯瞰的評価に関する研究報告 (東京大学 藤垣特任助教)
1) 研究の背景
- 本日は、日本都市計画学会都市計画報告集No.21 (2022年5月)「東京都市圏郊外ニュータウンの人口趨勢と用途地域及び開発形態の関係の分析」で発表した研究について報告いたします。
- 東京都市圏郊外では、人口減少や高齢化が進んでいる地区や高齢者の生活利便施設へのアクセスが課題になっている地区がありますが、一方でライフスタイルの多様化や在宅起業の増加なども進んでいます。都市計画制度としましては、横浜市のように、郊外部で広く指定されている1低層 (第一種低層住居専用地域) において、小規模店舗や喫茶店など生活利便施設の立地が可能となるよう用途地域見直しを進めているところがあります。
- 本研究は、東京都市圏のニュータウンを対象に、代表的な都市計画規制である用途地域及び開発形態等と人口の趨勢について定量的な分析を行い、基礎的な知見を得ることを目的とするものです。本研究では、就業者の10%以上が東京都心部へ通勤している圏域のニュータウンを「東京都市圏のニュータウン」と位置づけています。
2) 用途地域・開発期間と人口趨勢
- 各ニュータウンの用途地域と人口趨勢の関係を可視化しますと、1低層の割合が80%以上と特に高い場合、人口減少地区の割合が高いことが確認できました。また、1中高 (第一種中高層住居専用地域) の割合が高いほど人口減少地区の割合が高い傾向が確認できました。一方で2低層 (第二種低層住居専用地域) の割合が高いほど、人口減少の割合が低いという傾向が確認できました。
- 続いて、開発期間と人口趨勢の関係を可視化したところ、開発期間が長いほど人口増加、あるいは安定している地区の割合が増加することが確認できました。さらに開発期間が短いほど人口減少地区の多くなることが確認できました。
- 以上の用途地域・開発期間と人口趨勢の関連について、人口減少地区であるか否かを被説明変数とする『ロジスティック回帰分析』の手法で確認しました。特定の用途地域が一定以上存在することを示すダミー変数に関して、1低層・2低層・1中高・商業系合計の各ダミー変数が有意となりました。1低層・1中高が一定以上含まれている地区では人口減少地区が多くなり、2低層・商業系が一定以上含まれている場合に、人口減少地区が少なくなる傾向が確認できました。
- 用途地域以外に関する変数では、開発期間と東京駅所要時間が有意となりました。開発期間が長めであるほど、人口減少地区が少なくなる傾向が確認できました。
3) 考察
- 1低層は小規模商業施設の立地できない厳しい規制であり、さらに戸建て分譲住宅が中心で住宅の多様性が生まれにくく、若年層の流入が生じにくい傾向があります。一方で2低層や商業系では、中小規模の商業施設やその他生活利便施設が立地する近隣センターとして機能している可能性があります。これらの用途地域の指定が適切に行われることで、買い物等の利便性が高くなり、若年層等の新規居住者も入居しやすく、人口減少が生じにくくなるという可能性が考えられます。
- 1中高では大規模な集合住宅の団地が多く、建物にエレベーターが無く、老朽化が進んでいる地区が多い傾向があります。こうした地区での人口減少には、建替えの影響で一時的に人口が大きく減少しているケースと、建替えが行われず中古市場での競争力が確保できないために人口の自然減や社会減に直面しているケースが考えられます。
4) 質疑・応答
質問:開発期間が短い又は長い住宅地とは、どのような住宅地ですか。
藤垣特任助教:住宅が一斉に建築されるような大規模団地では、開発期間が短くなります。一方で土地区画整理事業地区では建物が徐々に建ちあがり、開発期間が長くなり、人口のバリエーションが確保されます。
質問:開発時期によって、指定された用途地域が異なるということは無いですか。
藤垣特任助教:開発時期によって都市計画制度が異なることもあり、用途地域への影響はあると考えられますが、統計的な分析はまだ見られません。また都道府県によっても、用途地域指定の考え方は異なります。
質問:商業施設誘致については、需要面からの影響があるのではないですか。
藤垣特任助教:需要が無ければ誘致できないということは確かにあります。一方で、ある程度の需要がありながら、用途地域の規制のために商業施設が立地できないというケースもあると思います。横浜市のように、用途地域見直しで立地可能なエリアを少しずつ増やすことによる商業施設誘致の可能性はあると考えられます。