阿部氏:私からは「インフラにもっと働いてもらう」との視点からお話します。まちの静脈となる下水道などのインフラは、都市整備時のニーズに応じて整備が進められてきたのですが、それが現在のニーズには、今のままでは合っていない場合もあります。しかし財政的に厳しい状況の中で、インフラを一から作り直すのではなく、整備されているインフラが二役・三役を担うということを、地域に合ったやり方で進めることがポイントになると考えています。例えば、赤ちゃんや高齢者が使うオムツですが、ウクライナ情勢などもあり、資源が足りなくなり、コストがあがることが懸念され、どのようにリサイクルするかを考える必要があります。下水道というインフラはリサイクル向けにつくられていませんが、行政が関与し、介護事業者や、オムツの事業者、リサイクル業者などの様々な人たちにメリットがある、好循環なリサイクルの仕組みをつくることが、“サーキュラー・エコノミー (循環型経済)”づくりになります。
インフラの機能・空間の多角的・複合的利活用は、行政と民間が協働で進めて行くことが必要です。総務省は令和元年に「2040年頃から逆算し顕在化する地方行政の諸課題とその対応方策についての中間報告」を発表し、資源制約の下での地域毎の長期的な見通し (地域の未来予測) の共有の必要性を指摘しました。そして「目指す未来像」の議論が、複数市町村の広域連携の取組みや各市町村における政策や計画に反映されるよう、財政措置を設けています。財政措置では地域で開催するワークショップなどへの助成もあり、地域の様々な主体を巻き込んでいくツールとして使っていければと考えています。
園田氏:私からはまず郊外住宅地の危機的状況を直視すべきということを指摘したいと思います。本日ご紹介いただいためじろ台は1967年、上郷ネオポリスがちょうど50年前の1972年、こま武蔵台は1977年、そのおよそ10年後に新百合ヶ丘のまちが誕生しました。こうした郊外住宅地は高齢化に直面していますが、日本は高齢化社会の次に多死社会へと移り、人口が減少することは避けられません。そこで3つのことを提案したいと思います。1つ目はマネジメントの主体です。郊外住宅地再生の鍵を握るのは、今お住いの方々と、本日発表いただいたような、地域に戻って来られたディベロッパーと考えられます。郊外戸建て住宅地のマネジメントは、ヴィンテージ化を成し遂げて資産価値を向上させた、マンションの管理組合に近いのではないかと思います。日本には“結”や“講”といったものがありました。海外では“コモンズ”やHOAといったものが、自分たちの資産価値を高めて次世代に渡すという取組みを進めています。2つ目は開発時から住まわれてきた一世世代が最期まで安全・安心に住めるまちにすることです。3つ目は郊外住宅地の新陳代謝です。郊外住宅地を引き継ぐ方々は、一世世代の、子どもや孫の世代です。一世世代が最期まで住み続けられたことが、一世の子どもや孫がリタイア後に戻ってきたいと思うことにつながると考えられます。そして、郊外の新しい魅力を発見した若い世代が住みたいと思うまちづくりを進めることが重要と考えられます。
大月教授:私は本日発表された李先生と一緒に、めじろ台のまちづくりに関わってまいりました。私からはまず、これからの郊外住宅地が共通して大事になってくるものは“人材”であると指摘したいと思います。例えばめじろ台で毎月開催しているまちづくり協議会では、住民組織 (自治会関係や地域のチーム・団体)、地域事業者 (医療・福祉・不動産・金融・商店街・まちづくり会社など)、外部応援団 (大学・行政など) といった、幅広い人材が関わっていることがとても大きな意味を持っています。次に重要なことは“活動”です。めじろ台の最初の段階ではまちづくり憲章や基本方針策定が進められていましたが、計画ばかりではなく、プロジェクト化が少しずつ進められるようになりました。皆の意見を聴きながら、やりたい人から手をあげて取り組んで行くということが、とても大事なプロセスです。
協議会で議論されている今後の課題は、めじろ台会館 (地縁法人である4自治会の共同所有) の改修・改築、めじろ台会館のサブ拠点を4自治会ごとの超高齢者が歩いて行ける範囲に設定すること、「若い人が住める住宅の提供」と「高齢者の地域内住み替え」のマネジメントです。
プロジェクトの中には収益のあがるものもあれば、赤字になっているものもあります。様々なプロジェクトについて皆でフラットに協議する場がとても大事と考えています。例えば「みんなのイスプロジェクト」では、保険に入る必要があるのではという意見が出て、みなで手分けして検討したところ、まちあるきのグループでも保険が必要ということになって、包括的保険に入ることで課題解決に移行中です。つまり1つのプロジェクトの課題が、他のプロジェクトの課題解決につながっています。“人材”と“活動”の積み重ねから、地域資源を皆で使う動きになることが肝になると考えています。