郊外未来デザインに迫る:俯瞰と仰望


成熟研委員:③のところが、ポストコロナ時代の突破口になる、とても大事なポイントではないかと考えています。社会情勢を逆手にとって、働き方だけではなく、きっかけづくりを進めることで、ビッグチェンジにつながるのではと考えています。
小泉教授:我々もここのところが大事と考えています。スポーツやトレッキング、キャンプといったネイチャーベースドなレジャーを堪能できることが郊外住宅地の強みになると期待しています。コロナ禍以前から、リモートワークやICTツールの普及と結びついて、郊外の強みから新しい居住者を導く動きがありました。ただ、③に向けたまちづくりには、行政の意思表示がある程度必要と考えています。上郷ネオポリスでは、大和ハウス様が表に立って、その後ろに我々や行政がつくという立ち位置になっています。行政が前面に出て、一緒によいまちにしていきましょうというスタンスでいかないと、可能性を拡大するような大きな動きにはなりにくいのではないかと考えています。行政の強いコミットメントをどう引き出せるかを、我々も研究面でサポート出来ればと考えています。
後藤特任講師:小中学校の統廃合による跡地をどう活用するかを、地元の皆様と一緒に考えていく必要があり、行政側は地元にどうアプローチしたらいいかを検討中です。こういった課題からも行政との関係が大事と感じます。リモートワークの転用を見据えるなど、行政と地元との協働が重要です。
矢吹特任助教:民間企業は営利目的と思われるということはあるかなと思います。アメリカでは慈善財団から資金を得て空き家を改修し、低所得者に安く売るCommunity Development Corporationという非営利のディベロッパーがあります。オハイオ州ヤングスタウンのヤングスタウン近隣開発公社 (YNDC) は、慈善財団と市がつくった公社で、公的資金も導入されています。さらに、地元の大学でまちづくりを勉強した方がスタッフになって、公共的な視点での空き家改修と、近隣の計画ビジョンづくりに携わっておられます。こうした公的な枠組みが確立されれば、やりやすいのかなと考えます。例えば株式会社として地域に入ることは難しいかもしれませんが、社団法人やNPOなどをつくって、その下の株式会社に企業が出資する公的な仕組みが日本でできたらいいなと考えています。
小泉教授:アメリカにはCommunity Development Corporationsという非営利のまちづくり会社があります。儲けよりフィランソロピーを重視して、赤字にならないよう経営できればいいというものです。企業が出資した小規模な事業体を地域に立ち上げ、地域の能力のある人を雇用するやり方は、日本でも可能かもしれません。NPOではなく、株式会社でもいいかもしれませんが、ある程度は地域に寄り添って活動できるような性質の会社でないと難しいと思います。ちなみにヤングスタウンのYNDCのリーダープランナーにインタビューしたことがありますが、とても優秀な方で、若く、アイデアがあり、地域の思いをくみ取るコミュニケーション能力が高い方です。地域の再生戦略を考えているスタッフがおられますが、その方も都市計画をしっかり学んだ優秀な方です。そうしたスタッフを、ボランタリーに手助けする人がいて、様々なプロジェクトを動かしておられます。日本では、今の段階では税制特例もなく、出資のインセンティブはないのではと思いますが、新しい公的枠組みがつくられれば、日本でも発展し、定着していく可能性は大いにあると思います。
成熟研委員:以前学識経験者の方から、企業が出資して、空き家活用のコーディネートを行う第三セクターをつくったらどうかとご提案いただいたことがあります。ハウスメーカーも軸足を新築から移さなくてはならない時期に来ています。まちづくりでの役割を担う三セクや社団法人をつくり、数ある分譲地に拡げていくような取組みを、柔軟な発想で進めて行ければと思います。
吉田座長:弊社は介護に携わっておりますが、災害時に要介護者が自宅に安心して留まっていられるのかという課題があります。災害の所管は総務省ですが、耐震など、居住とまちづくりにおける災害対策には、横断的な取組が必要と考えています。
小泉教授:立地適正化計画では、災害危険性のある地域を居住誘導区域から除外することになっていますが、現状で地域に住んでいる人がいるところでは除外が難しく、そのため、災害対策がしっかりできたところを居住誘導区域に組み入れるといった議論が行われています。災害対策は都市・建築・福祉といった担当者の協働が必要で、行政として前向きに取り組むきっかけになると考えています。


以上