郊外未来デザインに迫る:俯瞰と仰望

6) 現場が抱える諸課題

①まちづくり組織の自立的運営
 我々が関わっていく中で、郊外住宅地の現場が抱えていると考えている課題の1つは、まちづくり組織の自立的運営です。純然とした住宅地であるために、ステークスホルダーが限られ、収益確保に限界があります。エリアマネジメントは商業地において盛んに展開していますが、郊外住宅地でエリアマネジメント等を展開する場合、収益確保がネックとなる可能性が高いと考えられます。

②高齢化の進展と若年層の巻き込み
 65歳以上人口比率が50%を超えている郊外住宅地もあり、高齢化への対応が切迫している状況です。その中でまちづくりに取り組んでおられる皆様も、高齢になっている方が増えており、若い人をいかに巻き込むかが課題となっています。さらにコロナ禍で高齢の方が感染された時にリスクが高く、活動に制限がかかっています。

③住宅ストックのあり方
 郊外住宅地の高齢化進展により、高齢者が住み続けるための支援や介護サービスをどのように導入するかが課題になると考えられます。そして住まい循環のデザイン、住み替え支援のデザインが課題になると考えられます。家族と暮らしておられたが、ご自宅に単身で暮らすようになった方も多くおられます。一方で今の若い人は昔と比べて収入が少なくなってきていて、広い住まいにはなかなか入れない。地域内で多様な世代が暮らせる支援とデザインが重要と考えています。

④行政の巻き込み
 行政との連携はまだ不足していると認識しています。行政側には、特定の住宅地に関与することへの説明責任が必要という事情があり、そこをどうするかの工夫が必要と認識しています。

⑤法規制に起因する土地利用の不自由さ
 本日お話したように、用途地域・地区計画・建築協定などが障害となり、店舗などの出店がしにくい状況になっており、これからどうすべきかを、きちんと考えていく必要があると認識しています。横浜市は一低専の多いところですが、横浜市都市計画審議会において用途地域に関する検討が行われました。その中で議論されたことは、用途地域見直しと併せて、建築基準法別表の読み方をもう少し柔軟にしようということです。一低専で集会施設は建設できることになっており、コミュニティカフェやコワーキングスペースは集会所として、建築確認申請を通すことが出来るのではないか。郊外住宅地に必要な施設が立地しやすいような別表の読み方をしようというお話になりました。また、野七里テラスは建築基準法第48条に基づきつくられたコンビニ第1号ですが、最初の事例であるために、建築許可に相当な時間がかかったということがあります。許可手続きに必要な期間の短縮を考えています。

(3) 郊外未来デザインへの仰望

 郊外住宅地に様々な課題が生じていることはこれまでの学術研究で指摘されてきました。これから必要なことは、いかに課題を解決するかと併せ、郊外住宅地の将来ビジョンと計画デザインを描いていくことと考えています。
 かつての郊外住宅地は都心に通勤する方のベッドタウンとのモデルでしたが、最近はリタイアした方が暮らすリタイアメントコミュニティや、リモートワークをされる方の暮らすところへの変化が見られるようになりました。さらに上郷ネオポリスでは海に近いということでサーフィンを趣味にする方が移り住んでおられます。日高市はトレッキングやハイキングの聖地として知られています。都心から遠いですが、自然に近接したとても魅力的な場所としての価値が認識されるようになっています。衣食住と職、遊楽の重層的的な機能を郊外住宅地が内包していく形にリノ ベーションしていくような取組みが必要ではないかと考えています。
 また建物単体やスペースといった点的取組みをつなげ、拡げた、面的・立体的な都市計画の枠組みから、まちをどうしていくのかという視座が必要ではないかと考えています。