講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


3.ライフスタイル調査への西川図式の応用

 それから西川図式は、住まいの個人史の聞き取り調査、ライフスタイル研究に使えないでしょうか。住んでいた家を「いろり端のある家」「茶の間のある家」「リビングのある家」「ワンルーム」に分類してみる、あるいは年表にする。被調査者自身が引越しや建て替えによりライフステージが変わったと自覚しはじめる。住まいについてたずねることにより、ひ調査者が周囲の環境や町全体、人間関係について語りやすくなる。
 それから、20歳の学生に端的に、あなたは10年後だれとどこでどんな暮らしをするだろうという単純な問いも意外に有効的でした。私はこの問いを続けるうちに、全国のニュータウンから来ている学生が多いという発見をしました。しかも彼らの多くが、親たちのニュータウンにはたぶん帰らないと答えたことに、私はある種のショックを受けました。親たちの世代は、男性家長の稼ぐ家族賃金を根拠に、家族単位で生きた。しかし、不況の時代ということもあって、いまでは、若者は女性も男性も、むしろそれぞれが社会保障のしっかりした単身者賃金を稼ぐという組み合わせを考えている。とうぜん役割交代も組み合わせのいれかえも多いその組み方を家族と呼ぶかどうかは別として、こういった多様なありかたを追究する人たちが住む住宅と街は、従来の住宅や街とはちがってくるだろうと思われます。
 住まいという切り口から近現代家族の国際比較をする必要もあると思います。今まで全ての統計は国ごとなのに、その理由は問われることがありませんでした。私はこのテーマに深入りすればするほど、近代家族は国家の政治の問題であったのだと考えるようになりました。家族賃金体制が近代家族を成立させ、専業主婦を創出した。専業主婦によって担われている限り、家事労働は無償労働であり、なかなか目に見えるようになりにくい。しかし家事労働はすでに市場に出て、商品化されている。家事労働力はどの社会からどの社会へ流れているか。これも住宅の構造にかかわる大きな問題だと思います。
 現代ではライフスタイルの確立が、自分の願望とか、あるいは地域のあり方とか、社会のあり方だけでは解決できないものになってきている。個人のライフスタイルは世界の動向に直結していると言うことができると思います。事例研究の積み重ねと、比較研究、たとえば近代家族の日本ヴァージョン、韓国ヴァージョンはどこが違うか、あるいはタイ・ヴァージョンとは何か、と問うていく地道な共同研究をいくつも集めてみると、グローバリゼーションの世界システムが姿を現わすのではないか。
 わたしは現在、日本各地のニュータウンがどのように変化するのかを追跡しているところなのですが、この先に国際比較が必要だと思っています。モデルの伝播と新モデルの創出もあれば、国境をこえてニュータウンからニュータウンへ労働人口の移動もげんに起こっている。ニュータウンは階層分離が進行する一方で、区切りの内側は同質社会であったのだが、その原則が崩れはじめています。いきいきとした混淆のきざしが芽生えている。混淆にはトラブルがつきものであるわけですが、新しい価値観はトラブルの調整から生まれる。建築や都市計画には、個人にたいするモデルの強制ではなく、住人のコンサルタントとなり、コーディネートをする役割が大きくあるのではないでしょうか。住人自身が気付いていない欲求をくみ上げ形あるものにデザインする仕事は、やはり専門家でなければできないと思います。


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