講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


3.ライフスタイル調査への西川図式の応用

 私がつくった繰り返された二重構造という枠組みは、ライフスタイル調査に使用できるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。例えば、これは文化人類学科の「ジェンダー文化」という科目の授業中に行っている例ですが、学生に日本型家族モデルとその容器モデルの変遷を解説した後に?建築家にはもうしわけありませんが、「設計者の意図に反した面白い住み方例を収集し解説せよ」というレポートを出します。学生が身辺を見回すと、いくらでも実例があるわけであって、彼らは喜び勇んで集めてきます。
 現代の学生、とくに文化人類学専攻の学生は、海外旅行の経験が豊富にあって、例えば東南アジアの生活を知っている。ところが自分のおじいさんおばあさんの話を改めてきいてみると、びっくりすることばかりだと言います。先述のように日本近代は猛スピードで変化を走り抜けたわけですから、今や異世代間は互いに異文化といってもよいほどちがっています。「nLDKのリビングのある家」風に改造された伝統的農家のリビングの床下にかつての馬屋や牛部屋跡があった。キッチンに改造する前には、お勝手に内井戸があった、とわかった、などというレポートがあります。一番変わらないのは仏間だったという報告もありました。
 一人暮らしの高齢者は、かつての「茶の間のある家」の全ての部屋を物置にして、実質上、一室住宅として住む傾向があるということもレポートからわかります。京都の古い町屋が、学生同士のシェア住宅や芸術家達のアトリエになる、工房になるという例も多い。「いろり端のある家」が喫茶店やレストランになっている例もある、などなどです。
 改造例の中では初期の2DKの場合が面白いです。家族用住宅を個室に転用する際に、他者との繋がり方の模索が見られます。個人住宅を閉じてしまうことは非常に危険です。一人暮らしには、他者との関係と他者からのサポートが必要です。家族用住宅設計が開放的な日本家屋をいかに「閉じ」、また部屋をいかに区切るかを考えたのにくらべて、個人住宅はむしろいかに安全に「開く」かが重要なのではないでしょうか。2DKは現代の家族用としては狭すぎますが、一人暮らしあるいは二人暮しにはかなり快適空間に作り変えることができる。そのときには、「閉じる」<「開く」が考慮されなければならない。
 また2DK設計の集合住宅に外国人労働者の入居が増えています。階段を上がって2ドアという形をうまく使いこなして、階段や踊り場が共同空間になった大家族ネットワークで住んでいる例などがある。2DKが小さな店として使われている例なども興味ふかいです。レンタルビデオのお店になって、お風呂の中に商品のストックが置いてあったり、エステの開業があったり、いろいろです。こういう設計の意図に反した使われ方のなかから、設計図・平面図だけでは読めない人間関係が表れてきます。


前ページへ  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  次ページへ  


ライフスタイルとすまいTOP