講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


9.まとめ


4家族によるコーポラティブ住宅での共同生活,地域活動の拠点としても利用される宿泊も可能な充実したコモンハウス,風呂・洗濯機・冷蔵庫等のシェア,学生の加わったワークショップによるセルフビルド,そしてもちろんパーマカルチャーに基づくデザイン。少し前ならそれぞれがインパクトある新しい提案・試みであることが,ここ里山長屋では無理なく総体的に実現している。

外観も内部のインテリアも,声高に主張するわけではなく,ナチュラルで居心地が良い。何よりもこの新しい形の器で,異なる家族構成の4世帯の現代的な生活が,ごくごく自然に営まれているのが印象深い。

また閉じられたコミュニティではなく,コモンハウスやブログによって開かれたコミュニティを志向していることも特徴的である。建設プロセスを紹介した里山長屋のブログは,多くの人の関心と共感を得て,投票による2010年のCANPANブログ大賞グランプリを受賞した。その後も専門雑誌だけでなく,一般誌やTVなど様々なメディアで度々とりあげられている。里山長屋という器と生活のあり方は,現代の住まい方の一つの選択肢として多くの人に共有・認識されつつあるのだろう。

里山長屋だけでなく,藤野という土地が,アーティストやエコロジーに関心を持つ人々が多く移住するエリアになっているということも今回初めて知って驚いた。パーマカルチャーというバックボーンを元に,着実に実践が展開されているのだ。10年ほど前,学生がエコビレッジの調査をした時には,理念あるいは技術が先行している事例が多い印象をもったが,明らかに時代は変わっている。

(鈴木毅)



途中から何を錯覚していたのか,完全に戸建て住宅だと思って話を伺っていた。長屋という名前がついており,外観も集合住宅である。勘違いしていた理由は,お話伺ったコモンハウスの空間が,大地とつながっており,広い土間があって,農家の居間のような開放感を持っており居心地がよかったからだろうか。あるいは,無垢の檜や杉が,構造材から仕上げ材までふんだんに使われていて,土壁などの自然素材が快適に感じられたからだろうか。お話を伺った居住者の子どもさんたちが,あまりにも自然にコモンハウスに出入りして居たからだろうか。

いずれにしても,4世帯がエコロジカルで健康的なコミュニティーを育むということを目標に,木造の大きな家に住むという,古くて新しい木造長屋のライフスタイルは,大きな説得力を持って存在していた。

他人と積極的に関わりを持とうとするシェアハウスが一般化し,環境共生問題,特に省エネに積極的に取り組まざるを得ない現代の日本社会では,この様なタイプ・システムの住まいが,一つのスタンダードとして定着するのも時間の問題であろう。

私がこのプロジェクトで一番注目することは,設計を担当した建築家の山田さんが実際にコミュニティーの一員として住んでおられることである。このことは,室内気候のデータがリアルタイムで見えることよりも重要だと私は思う。1年半ほど経過した実験長屋であるが,おそらく様々な課題を肌で感じておられるはずだ。今のところ具体的な計画はなさそうではあったが,里山長屋マークUを設計される頃には,更に設計に磨きがかかっているに違いない。研究者の端くれとしては,そのあたりの変更点がとても気になる。

(西田徹)




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