「弱い個人を柔らかく結ぶ絆」と「利用の構想力」
表題の二つの言葉は、ここ数年来居住環境について考える際に必ず頭をよぎる言葉です。「弱い個人を柔らかく結ぶ絆」は、この「ライフスタイルと住まい」の取材の中で、西川祐子先生が今後の家族の行方に思いを馳せながら語られた言葉ですし、「利用の構想力」の方は、コンバージョン研究以来、次代の居住環境形成の原動力を表現するものとして私自身が繰り返し用いてきた言葉です。そして、今回対象とした「ゲストハウス」なる新しい居住形態は、私の頭の中でまだまだ抽象的なままだったこの二つの言葉に、具体的な用例を指し示してくれるものでした。
この具体的な用例を見て、類似のものとして私の頭に真先に浮かんだのは自分自身の職場、大学の研究室です。私の研究室には現在約30名ほどの学生が在籍しています。日本人もいれば外国人もいます。卒業論文生もいれば社会人経験を持つ博士課程の大学院生もいますから年齢層は概ね22〜35歳程度。在籍年数は10年近くになる人もいますが、卒論だけの人は1年、修士で社会に出る人は2〜3年と、比較的短いサイクルでメンバーは新陳代謝していきます。彼らが、ミニキッチン、コピーブース、ソファコーナー、ちょっとした打合わせスペースを共有しながら、狭いながらも個々の研究スペースを確保している様は、ゲストハウスに重なります。今回あるゲストハウスの大家さんに会いましたが、清掃等日常管理を行いながら、時に居住者との呑み会を主催するとのことでした。居住者同士の良好なコミュニケーションの促進に役に立てばというその思いは、学生との呑み会を催す際の教員の気持ちと同じです。また、そのことが大家さん自身のある種の生き甲斐になりつつある様子も私の立場と似ています。
大学の研究室の場合、そこでの1〜数年の付合いは短いとはいえ、結局多くが長い期間に亘って帰属意識を共有することになりますし、生涯の友を得ることも少なくありません。弱いかどうかは別として、柔らかな絆で結ばれた個人同士がゲストハウスでの同居を通じてそのような豊かな人間関係を実らせることも十分に期待できると思います。若者の範囲に留まらない展開の可能性を感じさせるなかなか面白い居住形態です。
ところで、「利用の構想力」ですが、こちらの方は、ゲストハウスの多くが使われなくなった既存建物を巧妙に改造して実現されているという事実に十分現れています。実に今日的な現象だと思います。研究室の方は大学構内に与えられた部屋を使っていますが、ゲストハウスのあり方を参考にするならば、既存ストックを利用する形で都市の中に出て行く将来も十分に考えられそうです。
(松村秀一)
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