「ライフスタイルを支える地域居住産業」。今回の取材後に真先に頭に浮かんだのはこの言葉です。
都会を離れ、家庭菜園づくりに慣れていなければ持て余すような土地を与えられ、近所に知合いもいない、しかも冬には相当な積雪のあるこの場所で新たに暮らすということは、そうした場所での暮らしに憧れていたとしても並大抵のことではありません。個人の覚悟だけではどうにもならないことがあります。少なくとも初期の数年間は、地域を知り尽くした誰かの支えが必要な筈です。今回何軒かの家を訪ね、その必要性をリアルに感じることができました。そして、今回のプロジェクトではその仕掛け人である地域の工務店、辻野さんたちが新しい居住者の方々を支えているのだと理解しました。
それぞれの人が自分らしいライフスタイルを求めて居住地を選択する時代には、地域の工務店は従来の「建設業」ではなく、ライフスタイルを支える「地域居住産業」という位置付けのものになることを目指すべきではないかと漠然とは思っていましたが、今回の辻野さんたちの活動を見てその思いが確信に変わりつつあります。
最後に、とても象徴的な辻野さんの家の話。少し大きめの住宅ですが、それはそれとして、ペットが数頭の山羊だということ、自宅にギター職人の工房が併設されていること、そして道を挟んだ向かいにはやはり辻野さんの手による建物にデイケアセンターとグループホームが入っていること。まさに、ライフスタイルを支える地域居住産業の経営者の自宅かくあるべし。
(松村秀一)
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