講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


9.犯罪不安と監視の目
横山(勝):  先ほどの犯罪不安の話ですが、確かに住居侵入が一番の関心事になりますが、ひったくりや誘拐などの路上犯も不安感に深く関係します。発生率自体はすごく低くても重大な事件ですから、不安感を鎮める上では路上犯の解決も大事だと思います。

例えばオスカー・ニューマンの理論は、同心円状のモデルで組み立てられていますよね。プライベートスペースの周囲にパブリックスペースがある。その間に中間領域を入れ、そこに近所の人々の監視の目を考える。でも、通学路などの子供の生活圏を考えると、全てそのようなセミパブリックスペースで覆われることはありえなくて、誰の目もないパブリックな場所を通らないと遊べないし通学もできない。そうした監視の空白スペースが空き家の増加などによって都市の中に増えていく。そういった問題が、我々の犯罪不安を駆りたてているんじゃないかと考えています。
横山(ゆ):  監視の目の減少と考えると、田舎の状況と類似してきますね。
横山(勝):  そういう意味では鉄道型郊外の方がまだ救いようがあるような気がします。自動車型郊外の場合、車で生活する大人はいいかもしれませんが、子供は遊びに行くのにも通学するにも、10分も20分もどうなっているのか分からないような場所を通ることになる。
横山(ゆ):  アメリカでは、学校へ行く場合も必ずスクールバスに乗せて、一人で歩く距離を極力小さくしていますよね。
鈴木:  日本でも、かなりの場合そうしているのではないですか?
横山(勝):  親が送り迎えを個別にしてはいますね。
横山(ゆ):  でも、それからこぼれる部分が必ずあると思います。
横山(勝):  結局、そういう状況が生じる開発を許可しておいて、子供の安全は個人の責任にしている。実際は、スクールバスは少ないわけですよ。
松村:  高齢社会にも通じる問題です。ライフスタイル考現考の「40年目の郊外住宅地」で取り上げた場所は、駅からバスで15分くらいの住宅地です。今のところはかなりの本数があって便利な住宅地ですが、サラリーマン層が減少すると、バスの本数が減ったり、最終的にはバス路線が無くなることだってありうる。そうすると、若い人は車で出掛けられますが、年をとるとどこにも行けない孤島のようになってしまう危険性があります。
横山(ゆ):  自動車型の郊外住宅地には難しい問題が多いですね。イギリスなどの郊外には、クルドサックをもつ歩車分離の住宅地が見られます。こうした開発では、歩行者はフットパスと呼ばれる歩行者専用道路でアクセスできますが、住宅への入口や監視の目は自動車がアクセスするクルドサック側に集中的に向けられています。

こうした住宅地に生じた犯罪をプロットすると、入り口があって人の往来もあるクルドサック側は少なく、フットパスからアクセスできる部分に集中しています。監視の目が集中している表の公道ではなく、表に集中した分監視の目がまばらな裏側のフットパスが犯罪者の侵入ルートになっている。一方、家の入り口が満遍なく面しているインナーシティの通りは、自動車も人も往来し、そのこと自体がある程度防犯効果をもたらしているとも考えられますね。



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