講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


4.事例紹介(1)アメリカの郊外と犯罪リスク
鈴木:  英米の研究を翻訳されて、日本について思うところがあったと思います。海外の事例をいくつか紹介して頂き、それに対して日本で典型的と思われる状況をどう考えられたかお聞きしたいと思います。
横山(ゆ):  これはアメリカの犯罪リスクを示す表です。郊外は「sub-urban」にあたると思います。アメリカで「sub-urban」というと、自動車がないと暮らせないような町のことですよね。一方でイギリスでは鉄道で行ける住宅地といったイメージでしょうか。都心との距離感も近隣の密度感もかなり異なるような気がします。
横山(勝):  表の横軸は都市、郊外、田園地帯、全米平均が示されていて、縦軸は身体犯と財産犯に分かれています。財産犯は、さらに持ち家と借家の場合とに分けられています。これを見ると、インナーシティが危ないから郊外へ逃げ出しているという社会背景が理解できます。



5.事例紹介(2)日本の犯罪マップ
鈴木:  日本ではどうなっているのですか?
横山(勝):  一般の人々が入手できるデータは、警視庁のHPにある犯罪マップくらいになります。このマップ(http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/toukei/yokushi/yoku_aj.htm)は東京をメッシュで切って発生数別に色分けしたものです。
松村:  新宿が非常に多いですね。
横山(ゆ):  新宿・池袋あたりは多いですね。それと、千葉との境あたりも多いようです。
松村:  ターミナル駅周辺で犯罪が多いのは感覚的に理解できますね。でも、そうすると、山手線の内側は安全ということになるわけですか?
横山(勝):  この図からはそう見えますが、あくまで住居侵入犯の分布です。歌舞伎町あたりは安全なように見えますが、住宅がないからです。路上のひったくりなどになるとまったく別の結果になります。
松村:  確かに住宅が少ないからなのでしょうね。でも、山手線の内側でも武蔵野台地の東端部分−いわゆる山の手エリアは少ないですね。


6.事例の紹介(3)鉄道型郊外と自動車型郊外
横山(ゆ):  次は山手線から私鉄で20分程度の地域にあるT市です。
横山(勝):  やはり駅の辺りで犯罪は発生しています。
松村:  そうすると田舎では起きないということになりますか?
横山(ゆ):  では、北関東の地方都市、O市周辺の犯罪マップを紹介します。この図には財産犯ということで、住居侵入だけでなく、車上荒らしや引ったくりなども入っています。
松村:  やはり旧市街で犯罪発生数が多いということですか。
横山(ゆ):  旧市街以外にも、幹線道路沿い、特に高速道路のインターチェンジを結んで下を走る幹線道路沿いも多いですね。
横山(勝):  O市の方はアメリカの郊外と比較しやすいですね。T市のように鉄道と結び付いた郊外は駅を中心とした都市じゃないですか。一方、O市は明らかな車社会で、幹線沿いの大型店舗を利用するので、中心市街地はさびれてきている。つまり、住宅地はスプロールしているわけです。日本の人口は減り始めましたが、新築戸数は増えていますよね。核家族化が進んで、世帯数は増えている。地方では、今でも住宅メーカーや工務店が小規模な住宅地開発をしていて、田んぼの中にポツポツと住宅が建っている。こうした住宅地では車じゃないと買い物に行けない。
鈴木:  犯罪もスプロールしていると考えればよろしいのでしょうか?
横山(勝):  防犯理論の中にルーチン・アクティビティ理論というものがあります。犯罪を企てる人とターゲットが同じ空間・時間に出会い、監視者がないと犯罪が生じる、という当たり前といえば当たり前の説です。大規模スーパーなどロードサイドショップの集まるエリアはその典型的場所になります。犯罪もスプロールしていくんですよ。
鈴木:  そうした郊外の方がなんとなく不安だという印象がありますが、それは見る目が少ないからなのでしょうね。
横山(勝):  スプロールした田んぼの中の島のような住宅地では、見ている人が少ないわけです。犯罪者にとっては絶好のターゲットでしょうね。
鈴木:  先ほどアメリカの都心が不安だから郊外へ出ていったという話がありましたが、そこは安全なのですか?
横山(ゆ):  先ほどのデータは1000人当たりの発生数ですから、私たち日本人から見れば決して少ないとは言えないでしょうね。相対的に少ないということです。



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