講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


7.「安全」と「安心」
横山(ゆ):  アメリカの郊外では監視の目が少ないので、塀で囲ったゲーティッドコミュニティが重宝されるのではないでしょうか。
横山(勝):  そもそもゲーティッドコミュニティは防犯というよりも資産価値を高めるためのものです。実質的な効果よりも安心感を持たせるもので、実際に安全かどうかはまた別でしょうね。ゲーティッドコミュニティの住民もそのあたりは分かっていると思います。ゲートで囲ったから必ずしも安全というわけではない。安全と安心は違うということです。
佐藤:  犯罪率と犯罪不安率は単純に比例しないのですか?
横山(ゆ):  犯罪率が上がると犯罪不安も確かに上がりますが、その関係はそれほど単純ではないようです。イギリスのデータでは、面識のない人から受ける暴力被害は、青少年の方が高齢者より非常に多い。しかし、そうした暴力被害を受ける可能性があると思うかどうかアンケートをとると、高齢者の方でそう思う人が激増する結果になります。実際の犯罪率と感じるリスク感は一致するわけではないんですね。
松村:  そうするとライフスタイル上は「安全」よりも「安心」の方が重要なのでしょうか?
横山(ゆ):  そうですね。もちろん犯罪リスクそのものを抑えることが必要ですが、その上で安心感がないと落ち着いて生活できないということになるでしょう。
松村:  地方に行くと、この地域に鍵をかけている人なんていないという話をよく聞きます。地域社会の交流がパーソナルな場所で行われていて、誰がいつ来ても大丈夫という安心感が地域的に担保されている。
横山(勝):  安全で安心が一番いい。危険なのに安心というのが最悪ですね。安全なのに不安というのもよくない。住人の不安感を理由に監視社会にしようという動機がからむこともあるので難しいところもある。不安感が空回りして、住宅地に監視カメラをつけようという動きになるのはライフスタイルから見たときに問題ですよね。

そのあたりは建築計画の研究が大事だと思います。客観的データによって安全な部分と危険な部分を整理し、不安感をどうやって安心感に持っていくのかを実証的に示していく。そうやって社会の安全と人々の安心のバランスを取っていくまちづくりの思想が、この本の根底にあります。
横山(ゆ):  『犯罪予防とまちづくり』にはマニュアル的な解決方法はなくて、日本なら日本で、郊外なら郊外でちゃんと実証して、解決を導かなければいけないということが主張されています。そのための理論と実践例を、都市環境の異なるアメリカとイギリスとで相対的に示そうとしています。1998年時点の各国の全犯罪件数を見ると、アメリカでは10万人当たり4617人、イギリスでは8545人になりますが、日本は1612人です。これは警察の発表データなので、暴力犯などプライバシーに関わる犯罪がどの程度まで届け出があるのか、勘案する必要はありますが、これくらいの差があります。

日本の犯罪件数は2002年にピークを迎えます。その頃から政府が防犯対策をいろいろと講じるようになり、警察の発表ではその後は減少しています。でも、私たちの犯罪不安もそのように減少したかと考えてみると、むしろ不安が大きくなっているような気がしますよね。
松村:  そうですね。泥棒のライフスタイルの話になってしまいますが、空き巣は遠くから出張してくるそうですね。例えばアタッシュケースを持って新幹線に乗ってくる(笑い)。何度も同じ場所に通って1年くらいサーベイするので、プロに狙われたら侵入を防ぐことはできないらしい。だから、狙われないようにすることが大切になる。空き巣は侵入に要する時間で判断すると聞いて、僕の家では鍵を2個にしました。2個つけているだけでも警戒させる効果があるそうですから。
佐藤:  数年前になりますが、空き巣に入られた知人がいます。状況を聞いてみると、そのマンションの全ての階で階段から遠い住戸が軒並み被害を受けた。中には無事だった住戸もあったそうですが、そこはシリンダー錠が新しいものに交換されていた。見事に、相対的に弱いところだけ被害を受けたそうです。
松村:  泥棒によく入られる家ってありますよね。何か個人情報がプロ仲間で流れていたりするのでしょうかね。ただ、海外と比較する限り、日本はまだ安心できる感じですね。
横山(ゆ):  この本で述べられている防犯理論の背景には、かなり切羽詰った社会状況があります。犯罪リスクそのものが高いわけです。日本の場合は、犯罪リスクを抑えることはもちろん大切ですが、犯罪不安を抑えることがライフスタイルのためには重要と思います。



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