講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


11.質疑応答3:DIYから見える日本の建設産業構造
中野:  娘が小学校時代の頃に雑誌でお父さんのための日曜大工講座みたいなのをやっていて、その撮影はみんなうちにきてやっていたんです。その時、娘が作業しているところを写真に撮ったのですが、お父さんの手が映るとやってもらっているみたいに見えるからやめてと言われましたね。でも、それくらいは出来るようになって欲しいなという気持ちはやはりありますね。
鈴木:  時々やることは重要ですよね。
松村:  夏休みに地元の親子を集めて、木工教室などを開いている工務店があるのですが、その人達の話を聞くと、そもそも親が出来ない場合が多いらしいですね。親が子供に教えているのを工務店がちょっとサポートするつもりだったのに、親が出来ないから手間が掛かってしょうがないと言っていましたね。
鈴木:  アメリカにはDIYがあるのに,なぜ戦後アメリカの文化を輸入したはずの日本にはないのでしょうかね?
松村:  僕らの周りで言われているのは、まず、アメリカは家が広いからという理由が挙げられていますね。一方で日本では職人に頼む文化があるからという理由もあります。そもそも、ちゃんとした旦那というのは自分で仕事をしなくて職人が出入りするものだった。そうした文化が戦後の民主化に伴って平民化して、庶民の生き方というものが無くなってしまったのでしょうね。個人の力量がよほどじゃないと旦那にはなれないのだけど、みんなが旦那的に仕事を頼んじゃう文化が日本に根付いてしまったのではないのでしょうか。
中野:  会社員というのは旦那みたいなものですよね。昔は会社勤務よりも商店経営や自営のほうが圧倒的に多かったのですが、会社員が増えて社会構図が変わったのだと思いますね。うちも確かに祖父の時代には大工さんと職人さんが出入りしていましたね。それでいて、祖父は自分で直したりもしていましたね。
松村:  一般的な工具はどこの家にもありましたよね。針金などもどこの家にもありました。
鈴木:  それから日本の業界の矛盾ともいえるお話も印象的でした。榛名の別荘の時、引き受けてくれる人がいなかったということですが、オーストラリアと違って、日本では頼りない専門家というか限定的な専門家しかいないという構造的な問題があるように感じました。DIYに関する出版物も、中野さんの言われる男の料理型というか月刊誌型ばかりで、普通に作りたい人のためのメディアがあまりないのではないかと思います。
中野:  自分で作ろうと思っても出来ないというのが最初の壁でした。大工さんに端の所だけやって欲しいと言っても理解してもらえない。とにかくそこが一番大きな関門でした。特に田舎でやると大変ですね。

叔母が古い旅館を営んでいるのですが、家を直そうにも昔の材料を扱える大工さんがいない。誰に頼むかが問題となっています。昔から使っている柱を活用したいといっても今の大工さんは使えないといったような感じで、大工選びに苦労しています。地方の方が大工の権限が強いわけですね。でもユーザーの方は次第に別の方向に向きつつありますよね。
西田:  ご自身の仕事を作っていくということとDIYで家や家具を作るということがなんか一貫しているように思えます。
中野:  仕事ばっかりやっているのは惨めだと思うのですよね。今でも技術屋に戻りたいという思いはすごく大きいですね。ですから普通の作品をかく気はしないですね。ノンフィクションを書く時も理詰めでやりたいです。



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