講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


6.職人との意思疎通の難しさ


大工さんとの意思の疎通が、日本社会においては、もう一つのネックとなっているように思います。椅子やテーブルなどは自作出来ても、家屋に関することはそう簡単ではないので、やはり大工さんや工務店に頼らざるを得ない時があります。ところが、こっちの好みや要求が伝わらない。



これはその一例で榛名の山荘に作った流しです。小さなシンクを入れたいと思って資材の手配を大工さんに頼むのですが、とにかく話が通じず本当に苦労しました。こういう風にやりたいという図を描いて、大工さんに見せるのですが分かってくれないんですね。結局、ナスステンレスに頼んで、1DK用の一番小さな物を頼みました。



また、結婚して間もない頃、かみさんの実家の離れを借りて仕事場にしていたのですが、古い家なので本棚を入れる時に本の重量に耐えられるように床を補強してもらったんです。ところが、出来上がって本を運び込むと、その瞬間に床にすごい音がして全くダメでした。その時に、本の重量が大工さんには全く伝わっていないんだなと痛感しました。



日本というのは依頼者よりも大工さんのほうが権限の強い特有の風土なのだなと思いました。この風土はなんとなくわかるような気もするし、そのほうが安心出来るとも思ったのですけれど、ちょっと違うんじゃないかという気もします。



以前に住んでいた所で大工さんに庭のベランダを2m10cmくらい張り出し欲しいと頼んだのですが、ある日帰って見てみると1m80cmになっている。要するに日本の建材の基準寸法ですね。大工さんはそのほうが安上がりで良いと言っていました。好みが分かってもらえない上にあれこれと日本の習慣でごり押ししてくるところが、僕が大工さんに頼めない一番大きな理由ですね。



今自宅のリフォームをやって下さっている大工さんは例外的で、年配なのですけれどこっちの要求を細かく聞いてくれます。一番ありがたいのは家族の好みなど家の雰囲気を考慮してくれるのですね。家族の雰囲気に合わせて板の材質まで選んでくれています。



榛名の山荘を作る時にもドア幅の調整を大工さんには頼めないということがあり、自分で全部作りました。かみさんにお盆を持ってもらって、するっと通り抜けられるドアを測りました。そうやってわがままを通したというところですね。



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