講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


小川千賀子さんの話を伺って



5年前、新規分譲マンションの各戸のプランニングをそれぞれの住み手と相談しながら進めるという全く新しいビジネスを立ち上げた小川さん。 彼女の言うこの新種の「サービス」が利用できる分譲マンションでは、平均的に8割の購入者がその「サービス」を利用するとのこと。 残りの2割の多くは投資目的の購入者だというから、実際にそこで暮らそうと思っている購入者の殆どがこの「サービス」を利用しているという訳だ。 一言で言えば「個々の住み手のライフスタイルは千差万別、それをどんなに練らていようが標準プランのようなものに押し込むことには無理がある」ということだが、 小川さんたちの「サービス」にしばしば求められるのが、好きな家具が納まるように壁の位置をちょっとずらすとか、 持っている家電機器や照明器具の配置や使い勝手に合わせてコンセントやスイッチの位置を変えるといった、一見してそれとわからない大げさでない改造だという点が大変興味深い。 住戸内部の計画とライフスタイルの主要な接点は、いわゆる間取りなどではなく、生活のための道具やその配置にこそあるのではないか。そう思わせられる実話の数々。
小川さん曰く「よく最近『SI』なんて言ってますけど、あれは大阪から『ちょっと京都まで行きたい』という人を、いきなり月まで連れて行こうとするようなもの。 『京都まで』という人をきちっと京都までお連れすることが大事なんです。」(松村



マンションという高い買い物をしたのに、これまで持っていた家具がうまく入らないというのは困る。 しかも新築でこれから建設するというのにその微調整ができないというのはどう考えてもおかしい。 話しを聞けば聞くほど、これまでなかったのが不思議な仕事だという感想を持った。 デザインクラブが多くのマンションで実績を積み重ねつつあるのは当然のことだといえるだろう。 実は住宅産業にはまだまだ未成熟・未開拓の部分が相当あるのではないか。 遠くない将来、デザインパートナーズシステム付きだということが、マンション選択の重要なポイントになるように思う(現に近所の新築マンションのうち2つにデザインクラブが関わっていることを発見した)。 生活に住宅を対応させ調整するこうした仕事に対してなにか上手いネーミングが必要だと思う(ある事業主がフィットシステムという名称を使っているそうだ)。 高齢化社会にとってもそれは極めて重要な仕組みである。(鈴木



話を伺う前に、小川さんの会社のホームページを拝見したが、正直なところ業務内容がよく分からなかった。 更に恥ずかしいことに、話を伺っている最中も途中まで内容がピンと来なかった。 さすがに今は一応理解しているつもりであるが、ちゃんと説明してくれといわれたら少し困る。 別に複雑な話ではないが、なぜこの様なサービスが必要であり、ビジネスとして成立しているのかといわれたら全部はよく分からない。 よく分からないが、直観としてこのサービスに対する需要は消えないだろうと思う。
簡単に言えば、事業主と手を組んで、設計・施工業者と新築マンション購入者との間に立って、標準設計からその購入者にぴったり合った仕様に変更していく仕事だと思う。 普通に考えると、それはインテリアデザイナーやコーディネーターの仕事じゃないかと思う。 しかし、そういう仕事ともちょっと違う。そんなに大げさな話ではく、ちょっとした設計変更だそうだ。 そういうサービスなら、オプションではなくマンションの価格の中に含んでおいた方がいいじゃないかと思うが、そうでもないらしい。 設計者や施工業者が手を抜いて欠陥マンションを造っているから必要なわけではない。 中にはそういうマンションもあるかも知れないが、この大不況の中関係者はみんな誠意を尽くして働いていると信じたい。
どうやらこのサービスは、マンションというものをつくるプロセスの中で必要なサービスといえる。 第3者という中立な立場だから、個々のユーザーの細かい要求を満足させ、調整することができるのだろう。 内部の人間ではおそらくできない。おそらくこのシステムは分譲マンションに限らず、普通の独立住宅でも設計の最終チェックで必要なプロセスだと思われる。 別に悪気がなくても人間のやることには必ずミスがある。そのミスを事前に減らすことができるのであれば、こんなハッピーなことはない。 しかし残念ながら建築家のプライドはきっとそれを許さないであろう。もちろん私が建築家であってもあまり嬉しくない。人間の感情というのは複雑なものである。
どちらにせよ住居というものは、個人や家族のライフスタイルに合わせてかなりの細部までしっかりと設計しないとエンドユーザーは満足しないということを改めて学んだ。 訳の分からないサービスにお金を払うことが多い昨今、もし私が新築マンションを購入する機会があれば、このサービスだけは絶対に利用したいと思った。(西田

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