スマート化とwith/postコロナのまちづくり


成熟研委員:コロナ前での、ワークショップに集まる高齢層住民の方々の声というのはどういうものが多かったのでしょうか。
小泉教授:コロナの前、上郷ネオポリスで全世帯アンケートというものを行った際、回収率がおよそ9割でした。郊外では、地域づくりに関する危機感があるということですね。その中で最も多かった意見は移動の問題でした。そして2番目は買い物、次は居場所がないということです。地域のまちづくりのリーダーの方は、居場所の必要性を考えておられ、まず居場所づくりから始まり、ローソンからの協力を得て、その後自分たちは運営にも関わるということが進みました。移動については、横浜市の制度を駆使しており、未だ解決には至っていませんが、新しいモビリティに慣れ親しんでいただくためにスローグリーンモビュリティや一人乗りのモビリティを試すといった対応をしています。また、買い物の話ではローソンを起点とした移動販売が廻り、協力してくださる住民の敷地に移動販売車を停めることで、敷地にその時間に限った場所が生まれます。しかしコロナの影響で、移動販売の敷地で今まで通り親しく話すというのは難しいので苦戦しているようです。
成熟研委員:私は弊社高齢者事業の担当で多世代型交流型のまちづくりを推進しています。そこでは、高齢者施設ではないサードプレイス、住民だけではなくその地区に開放している誰もが使える場を運営しています。その目の前にある公園ではラジオ体操が増えていて、屋外で適度な距離がとれることで会話もできるということで非常に喜んでもらっていて、屋外も活用した場づくりが大事だと感じています。その中でLINEやタブレットを使っている高齢者の方は増えていますね。入り口の手続きさえ支援してもらえれば、自分たちでつながりたい人とつながれるという高齢者にとっても便利なツールだと感じています。パリから流出するフランス人が増えているという状況は収まっているのでしょうか。
小泉教授:人口流出はまだ続いていて、ニューヨークでも同じようなことが起きています。特に裕福な層が出ていっています。移動できない人は残らざる負えない状況で、そこでも格差社会の問題が起きていて、コロナによってより分断が強調されているのではないかということを危惧している方は多いですね。
成熟研委員:トロントのスマート化事業についてスケッチや構造の中身は魅力的だったのだが、市民参加が形式的で頓挫したとのことでした。形式的参加にならず実現していくコツや、次はどうしたらよいか策がありましたらお聞かせください。
小泉教授:市民参加のポイントは研究で明らかになっており、実績になるような市民参加の基準というのはあります。その基準をクリアしながらプロセスをデザインしたり、実際の参加の取り組みを行っていったりすれば、おそらく上手くいくと思います。例えば、重要なステイクホルダーは全員含まれる必要があることや、ディスカッションの場では全ての人の発言に耳を傾けて可能性を検討するということです。ディスカッションには、意思形成の場とさまざまな価値を表明する場、意思形成されたものをもう一度問い直す場の3つの場あります。意思形成の前に多様な価値を見出す場をフォーラム、意思形成そのものの場をアリーナと呼んでいます。1度決めたものを問い直す場のことをコートといいます。コートは法的もしくは準法的なプロセスと考えていただいていいのですが、一番大事なのがフォーラムです。フォーラムという、いろいろな価値や多様な人々の意見を表出していって、何が大事なのか見極めていく過程というのが大事です。ここをうまくやらないと、アリーナもうまくいきません。フォーラムからアリーナ、アリーナからコートと連続してプロセスが進んでいくことになるので、フォーラムのところで市民参加の基準に従うことが重要なポイントです。ICTを使って市民が住宅地計画に参加するというやり方は、市民参加の新しい図型としてあり得ると考えています。


以上