スマート化とwith/postコロナのまちづくり


(6) 郊外への投資に何が必要か

 郊外については、既存のストックやアセットを活用して、新たな資源と付随化していく、いいチャンスが来ていると思っています。これからの10年ぐらいで、オールドニュータウンと言われたところの投資が起きるために必要なポイントは3点あります。
道路や学校や店舗の意味を変えていく:郊外住宅地の良好な道路や学校や店舗について、人々にとっての意味を変えていく必要があります。郊外住宅地では、区画整理等の基準で広い道路が整備されていますが、車が通っておらず、閑散とした住宅地という状況になっています。そのため、道路の断面を考え直すとか、公園も庭になるような新しい場所を増やしていく、学校のような施設も統廃合をうまく活用して多様なプレイスにしていくといったことが必要です。住宅の質も良いため、住む・楽しむ・働くことを共存しているような、都心とは違う新しい楽しみ方ができます。身近なところでキャンプができるとか、ネイチャーベースを楽しみの拠点とするとか、子育て中の女性が楽しめるような場所や、働く場所はあったほうがいいと思います。今まで住宅地がなかったような場所に、様々なプレイスを埋め込んでいく作業が必要になります。
インフラとしてのスマート化を入れ込んでいく:インフラとしてのスマート化を入れ込んでいくことが、郊外に次の世代を引き込む上で非常に重要なテーマです。誰かが投資をして整備をしないと、スマート化は進んでいかないと思うのですが、これを事業化してやるようなメカニズムをつくって郊外住宅地に埋め込んでいかないと、他地域との競争に負けてしまい、若い人の住処に選ばれないことになると思います。
参加型でのスマート化:参加型で地域の価値を高める手段としてのスマート化を、どう考えていくかが大事になってくると考えます。
以上の3つのポイントについての事例には以下のものがあります。
パリではコロナの影響で人口流出が起きていますが、以前からパリ市長は、レクリエーションをする場所もあれば、仕事もできるといった、さまざまな機能に15分でアクセスできるような街にしようとのメッセージを出しています。
バルセロナではスーパーブロックモデルという、郊外既存道路の資源化の取組みを進めています。元々バルセロナはブロック状の街区でできていて、1辺100m前後の街区3つをまとめて1辺300mほどの大きなブロックにして、そのなかの道路には基本的に車を入れないようにして、緑地や公園のようなレクリエーションの空間とするものです。演劇をしてもいいし、サッカーをしてもいいし、というものです。そうしたスーパーブロックを市街のほとんどのエリアに普及させようというプランを進めています。
オーストラリアのビクトリア州では“20分の近隣”をかかげています。半径約800m圏域で、いろいろなものが整い、用事を済ませて家に帰るまで20分で往復できる近隣居住地域を目標像としています。日本の郊外住宅地の再生にもつながる考え方だと思います。
大学演習で、田園都市が新しい意味を持っているのではないかということに着目した学生がいます。ここでは長野県小布施町を対象としていますが、大都市郊外に置き換えてもいいかと思っています。土地の所有と利用を分離して、利用の部分を皆で考えるということが考えられます。住民の自由と協力で整備していくという田園都市のコンセプトが郊外住宅地にもあるかもしれません。
fig1
 都市と郊外、そして都市と地方の関係性がこれから変わるのではないかと考えています。地方は人口が減少して高齢化していく、そして現実的には住む場所しかなく、都市から受ける恩恵というのはすごく減っています。しかし現在、移住への関心が実際に高まっており、これまでのような住むだけのまちには限界があるので、新しい取り組みが重要になります。