スマート化とwith/postコロナのまちづくり

東京大学まちづくり研究室 教授 小泉秀樹

 現在の都市計画・まちづくりでは、IoTやAI技術、ICTを駆使したスマートシティの構築が重要な課題となっています。一方で、コロナにより、都市やまちづくりのあり方が大きな影響を受けています。住宅生産団体連合会・成熟社会居住研究委員会では、東京大学まちづくり研究室教授の小泉秀樹氏から、スマートシティの構築と、with/postコロナ時代のまちづくりに何が重要かについてのお話を伺いました。

(1) スマートシティとは何か

 スマートシティという言葉は、90年代に既に使われています。当時は大学でしか使われていなかったインターネットが普及する過程で、行政サービスや公共性の高い社会サービスがインターネットに置き換わっていくのではないかと議論されていました。その後、2000年代の中盤のアメリカで、スマートグリッド政策から派生し、効率的なエネルギーの利活用を可能とするシステムを導入した地域がスマートシティと呼ばれるようになりました。そしてアメリカやEUでは2012年頃から、IoTやAIを活用したスマートシティ構築の官民連携パートナーシップでの実装が進められるようになりました。日本での政策支援はやや遅れて始まっています。
 そして“LIFE SHIFT”の著者であるリンダ・グラットン とアンドリュー・スコットらは、同書の中で、スマートないしはイノベーティブ人材の集積する都市をスマートシティと定義しています。この点が重要であり、市民が様々なテクノロジーを使いこなして、都市や地域づくりに関わってくるという文脈がスマート化では大事ではないかと考えています。
 加古川市では子どもが巻き込まれる犯罪が複数続き、ファミリー層の居住が減少していたことから、防犯を政策的な課題と捉えました。安全な地域をつくる政策として、市長がイニシアティブをとりながら国から補助金を取り、見守りカメラの多数設置をするためには、地域合意が必須でありました。政策について広報や議論を進め、地域別の説明会を開き、必要性の説明を行い、そこから出た意見を基に政策を検討し、条例化しました。そして、様々な企業から協力を得ることができ、現在では防犯だけではなく様々な切り口から新しいスマート化の取り組みが展開されています。加古川市のように特定の課題に応じて居住ベースでスマート化していく進め方が良いのではないかと思います。
 スーパーシティという複数のスマート化の同時活性化においては、国や自治体のリーダーシップと同時に、住民の合意や参加が不可欠です。スマート化というのは、情報を民間企業が提供するだけではなく、民間企業が市民の参加性を高め、それを集めて相談・編集できるようにするというように、高度な政策形成や事業形成のツールに発展しているのではないかと思います。ただ、様々な観点からの問題も指摘されていて、例えばICT技術の影響で郊外住宅地のさらに外側に、無秩序な形で小さな開発が起きてしまい、公共交通が維持しにくくなるのではないかということが懸念されています。また、市民参加やマネタイズについて、誰が利益を得て、誰が負担するのかが整理されていないということです。現在、都市計画学会のスマートシティ特別委員会でこれらの課題について検討しています。