スウェーデン『住み続ける』社会のデザイン(後編)

 
成熟研委員:この成熟社会居住研究会では、国交省への政策提言を行っており、政策として認めていただいたものがあります。先生の知見で、サ高住といった日本の高齢者住宅について、こうしたらよいのではないかとお考えのことがあれば、教えてください。
水村教授:日本においても、90年代半ば以降に建設された戸建住宅や集合住宅は、品確法もありますし、高齢社会を考えているので、それほど問題はないのではと感じています。ただ、日本の大多数の方は60〜80年代に建てられたバリアフルでサニタリールームの狭い、木造の戸建て住宅にお住まいです。サ高住に関しても、既存ストックの利用の仕方によってかなり低廉なものがあるのではと思います。昨年、安心居住政策研究会の延長線上でサ高住の共用空間の基準検討に関わらせていただいたのですが、スウェーデンの安心住宅は、既存ストックを活用しているので、一律の基準で共用空間がつくられているのではなく、それぞれの事情に応じて図書室やカフェが提供されています。しかし日本の場合、国民性だと思うのですが、基準をつくってしまうと、皆さんは純粋にそれをフォローしようとする努力をして、共有キッチンや共同浴室があまり活用されていないということがあったと思います。そういう所はもっと柔軟に、それぞれの事業者さんの考え方やコンセプトに応じてコントロールできるようにしていってもいいのではないかと思います。需要と供給を全体として捉えるのではなくて、やっぱりそれぞれのクオリティにどういう売りがあって、それに納得する方に住宅が提供されるといったような整理が重要ではないかと思います。ただしその場合もある程度の期間、居住継続が図られるということが非常に重要だと思います。
成熟研委員:現在、住宅ハード面で、例えば色彩コントラストなどで、認知症の進行を遅らせることなどに、住宅メーカーとしてどう対応するのかが問われています。
水村教授:スウェーデンの高齢者住宅やグループホームでの色彩コントラストは、ヨーテボリの看護師が認知症高齢者のケアのための空間についてまとめられた論文をベースに多用されており、イギリスなどヨーロッパの国ではその知見をかなり取り入れているようです。日本には東大の高齢社会総合研究機構や国立リハビリテーションセンターがあり、ヨーロッパやオーストラリアにも老年学研究をかなり重点的に行なっている大学があります。住宅ハードと高齢者の生活の関連について、それぞれ知見を集めておられると思います。
住団連小田専務:1クローネ=13円とすると、安心住宅の家賃は10〜18万/月くらいになります。入居者の方々は、家賃をどのようにお支払いされているのでしょうか。
水村教授:確かに安心住宅の家賃はかなり高くなっています。これは先ほどお話したストックホルムの住宅事情の影響もありまして、便利な立地の住宅の家賃が跳ね上がってしまっています。そのため、スウェーデンでは社会住宅も必要ではないかという議論も時々あがっております。入居者は基本的に個人年金で家賃を支払っておられます。中には大きな一戸建て住宅の資産をお持ちで、その資産活用によるお金を家賃にあてている方もおられました。スウェーデンでは、一定以上の階層で働き続けると、年金もかなりの額が入ってきます。ただ生涯専業主婦で、夫が亡くなられて年金収入が無くなり、急激に貧困に直面するといったお話もよく聞きます。
厚労省橋口氏:日本でいう要介護3から5の、重い要介護の方は主にサービスハウスや看護介護住宅にお住まいなのでしょうか。
水村教授:とても重い要介護の方や、余命が幾ばくかという方は、看護介護住宅に住んでいる場合が多いと思います。サービスハウスというものは、元々は1980年代に比較的元気な高齢者のための住宅として供給されて、国中に爆発的に供給量が増えたものですが、入居者の高齢化で次第にケア付き住宅化してしまい、その結果ソーシャルコストもかかるので、国としては一旦廃止したシステムです。ただストックホルム市では、安心住宅やシニア住宅だけにしてしまうと、人的なサービスというものが住宅に併設されるような形で置かれていないので、精神的な意味でも身体的な意味でも困る人がまだまだ多いということで、居住形態として残しています。要介護3や4レベルでは、在宅で暮らしている方が非常に多くおられます。
厚労省橋口氏:外付けの介護サービスや医療サービスの充実が大きいということですか。
水村教授:大きいと思います。認知症になってしまうと隣近所に迷惑がかかるので在宅は難しいという認識ですが、身体的な問題であれば夜間の介護や医療も供給されますので、在宅で大丈夫だろうという判断になります。
厚労省橋口氏:スウェーデンではICTの活用が進んでいるとのことですが、日本でもICTや介護ロボットの活用が議論されていますが、その理由は介護人材がいないからということになっています。スウェーデンでは介護人材がいないとか、介護サービスが足りないという観点ではなくて、昔から福祉国家としての蓄積としてICT活用が発展してきたのでしょうか。
水村教授:確かに、高齢化率の上昇によって介護サービスの1人当たり供給量が以前より下がっているという状況が報じられていますが、急激な高齢者の増加ではないので、だんだん適切な供給量が見えてきて、以前の過剰供給よりも下がっている状況だと思います。スウェーデンではICTが基幹産業になっていますが、昔からICTに関する社会的な認識が広まっている国です。私が1994年に留学した時は、ちょうどインターネットが普及し始めた直後で、インターネットの技術者を養成するためのコースをつくる大学がありました。また、一般の中学校でパソコンが配布されています。ICTの浸透が、日本人がイメージするよりも進んでおり、iPadを利用する高齢者やスカイプで孫とお話する高齢者が、日本以上にたくさんおられます。


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