スウェーデン『住み続ける』社会のデザイン(後編)

 

5) スウェーデンの高齢者住宅のトレンド

 昨年の夏から秋にかけて調査を行ったのですが、その時終末期居住が可能かどうかということに関心がありました。昨年は4件見学出来たのですが、4件中3件の住宅の中で看取りの事例がありました。
 身体的に衰えていく人の場合は、ホームヘルプサービスや在宅医療によって支えられることはもちろんですが、介護・医療以外のことに関しては隣近所で支え合いながら最期を迎えていったとのことです。ただし認知症の方の場合は非常に難しくて、火災を起こしたとか、徘徊して警察沙汰になったとかになると、やはり家族や地域の社会福祉事務所に相談をして、グループホームへの移居が進むように、周りが進めていったということをうかがっております。
 こうしたことから近年のスウェーデンの高齢者住宅は、重介護期・終末期に対応する訪問介護や在宅医療の仕組みが整備されているので、それぞれの時期に応じたサービスを利用することで居住継続が実現しています。一方、認知症になり周りの人間の生活が脅かされるようになった場合にはグループホームの活用を考えていくといった方向が定着しつつあるようです。
 今回ご覧頂いたスウェーデンの高齢者住宅で重視されていることは孤独への対応と集合住宅コミュニティの構築による共助意識の啓発です。
 孤独への対応については、私が1994〜95年に留学した時に、すでにスウェーデンの老年学領域で研究し始めています。スウェーデンは日本より離婚率が高く、子供との同居という習慣はないので、高齢期の孤独というものをどうしていくかという課題が以前から認識されていました。それに対する一つの解としてこういう住まい方があるということですね。
 そして、やはりコミュニティを形成しておくと、支え合いのような活動が見受けられるので、非常にソーシャルコストとしても有効であるということから、集合住宅コミュニティを構築するための住宅のつくり方と、それによって共助意識を啓発してくというあたりに重点が置かれているのではないかと、私自身は解釈しております。

【質疑応答・意見交換】

成熟研委員:お話の中で“stigmatized”を低廉化と訳されていましたが、“stigmatize”には汚点をつけるといったニュアンスもあると思いますが、スウェーデンでもそのニュアンスで解釈されているのでしょうか。また著書を拝読させていただきましたが、その中で住宅地に格差があるためにライフステージに応じた住み替えができなくなっているというお話が非常に興味深かったのですが、高齢者に関してもそういったことが起きているのでしょうか。スウェーデンでは中学の社会科教科書の中で、高齢者になったら1割の方が高齢者住宅に入って9割の方は在宅で過ごされるということが書かれていますが、現在でも1割が高齢者住宅、9割が自宅というトレンドなのでしょうか。
水村教授:ご指摘のように “stigmatized”には、所得が低い人や教育を受けていない人、移民が住んでいると社会的に認識されていると「烙印を押す」というニュアンスがあり、それは言葉としては良くないかなと思いまして、低廉化と訳しました。高級化はgentrificationの訳です。リロケーションに関しては、高級化された住宅地は非常に住居費が高いので入れない、アフォーダブルな公的賃貸というのはウエイティングリストが何年にもなっていて、なかなか入れない。以前はかなり空き家もあってリロケーションができる状況でしたが、現在の三大都市部では空き家がない。そのため、お年寄りが郊外の非常に大規模な戸建に一人で住んでいる状態で、日本と同じ状況というお話は聞きます。ただし、地方に行くと、80年代同様の住宅供給の体制が組まれているので、それぞれのライフステージに応じた住宅に住める余地はあるようです。高齢者住宅に住む人の割合に関するデータは見たことはないのですが、緩和ケア病棟の人の話を聞いても、多くの人が、自分が働き盛りのころに住み始めたアパートに住み続けていて、1940年代から50年代に建設された階段でしか上がれないような住宅に住んでいる人も、まだ多くいるそうです。皆さん、高齢者住宅があるからといって入居するわけではないというお話なので、大多数の人が一般の住宅に住んで、テクニカルエイドで住宅改修をして、ホームヘルプサービスや在宅医療を受けて居住継続していることが現実だと思います。