住生活基本計画の中間取りまとめを受けての
民間プレイヤーへの期待
4) インスペクション
これまで日本の住宅はつくりっぱなし・住みっぱなしで、再投資があまりされなかった傾向がありました。既存住宅の新しい流通においては、再投資とそのためのインスペクションが非常に重要と考えております。
日本では音の問題はあまり取り上げられてなかったと思います。住宅の間仕切りなどだけではなくて、住宅と外の問題で、例えば近所の公園で子どもが遊んでいるのがうるさいとのクレームがあり、その公園が使えなくなるという出来事がありました。ドイツやオーストラリアでは、子どもは音を出す権利があるということが認められていて、但し何時から何時までということが決まっています。本当に議論した上でクレーマーの方が正しいという結論になっているのかどうかということは、ものをつくる側の責任にとても関係があると思います。
2050年からのバックキャストにより、2025年での取組みを考えております。新築、建替えや除却により住宅ストックの置換えが進み、2048年には人が居住している住宅のうち少なくとも約6割が2000年以降に新築された、かなり質の高い住宅ストックになると推計されています。一方で、人が居住している住宅ストック数と比較して、新設住宅着工戸数割合は年々減少しており、リフォームによる性能向上の重要性が今後更に増していくと考えられます。
既存住宅の流通の方向性として、これまでの住宅の性能や機能が充実する政策をより進め、高齢期の住生活を支える住宅が負の遺産になっている現状をどうするかが非常に重要だと思っております。既存住宅の性能や利用価値の見える化というものがインスペクションと非常に関わりがあります。住宅を買う側が、質の悪いものを買わされることのないようにチェックするためのインスペクションではなく、住宅を持っている側が、自分が持っている資産がどういうものであるかということをよく理解するためのインスペクションです。これこそ住まいのリテラシーであり、自分の資産をどんなふうに活用するのがベストなのかということを、国民全体が考え始める。そこを支援して大きな産業としていくということです。資産の適正な評価と維持管理、流通を支える制度や金融の仕組みをつくらなければならないと考えられます。
5) 新しい既存住宅流通
2024年12月から開催されている「既存住宅市場の整備・活性化懇談会」(座長:神戸芸術工科大学学長松村氏) において、流通A・流通Bというお話がでています。国の資料によりますと、以前は3割くらいだった既存住宅の流通のシェアが、2023年に4割を超えるようになりました。この基調は変わらないのではないかと思っております。「スムストック」(大手住宅メーカーなどで構成される優良ストック住宅推進協議会の査定方式による中古住宅の流通ブランド) も定着しつつあります。流通Aはこうした、今まで我々が試行してきたもので、性能も利用価値も共に高いストックの性能維持と流通を進めるものです。一方で流通Bの扱うストックは、安全性等の性能に当分の間の課題があってストックのまま残っているが、インスペクションを必ず実施し、修繕することで高い利用価値の考えられるものです。例えば、住宅の居室部分だけ耐震性を高く修繕すれば、単身高齢者に利用できることが考えられます。流通Aだけじゃなく、流通Bをところどころ即地的に考える必要があるのではないかという論点が出てきております。
2ところがインスペクションがまだ普及していない。今は、既存住宅状況調査技術者という国の制度があって、日本建築士会連合会や日本建築士事務所協会連合会、全日本ハウスインスペクター協会など5団体が協力しています。一級建築士で、技術者講習を受けたという人が多く、全国で現在1万7千人いらっしゃるので、心強いように見えますが、実はこの人たちはほとんどインスペクションを実務としてやっていないようです。インスペクションの料金は5万円から10万円のようですが、大変苦労のある業務であるのに料金がこの程度ではあまり引き受けたくないという話を聞いております。他にも、色々な形でインスペクションをやっていらっしゃる団体もあって、そことの意思疎通はほぼ取れておりません。行政のインスペクション担当の職員のお話では、これらの団体のアソシエーションを作っているわけではないので、実態がよくわからないとのことです。しかし消費者向けのアンケートによると、既存住宅の取引当事者が、売買時にインスペクションを実施する割合は3割程度です。つまり、インスペクションの実績はありますが、誰も意識していなくて、インスペクションをどう展開すれば、日本の将来の住宅全体の底上げに寄与するかなんていうことを議論している人がほぼいないと思います。ですから住団連さんが中心になって、住生活産業の方々が本気で取り組むことが重要だと思います。
6) 総合相談
売買時のインスペクションは行われていますが、空き家にインスペクションが絡まないことが大きな課題だと思います。アメリカのインスペクション制度を研究すると、買い手が自分の資産を守るために、プロであることを見極めてインスペクターを雇い、ホームインスペクションを行うという制度です。日本の宅建法にインスペクションを組み込んだ際は、基本的には買い手がプラスアルファのお金を5万から10万円払って、インスペクションをやるというものになりました。宅建業界の方々もこのことは知っていて、重要事項説明書にインスペクションが入っていても、売り手はそんなお金がかかるならしなくていいよとスルーされるようです。ですから、買い手によるインスペクションが流通の原理として正しいという理屈は通っているように見えますが、日本で今問題になっているのが、定年後に自宅に住み続けている方々です。例えば給湯器が老朽化して、50万円とか、大きいものになると80万円とか100万円、水道工事が必要になったらプラス20万円といった費用がかかることがあります。住む人と家の高齢化が同時に起きていますが、皆さん無防備で住んでいます。台風が来てどこから壊れて、年金生活であるのに家にこれくらいかかる、じゃあ売って施設に入ろうかということになって、人生の大半を借金づけになって買った財産を手放すことが起きています。これでいいのかということで、私はセルフインスペクションと言っていますが、その人が持っている財産の弱みと強み、課題と課題解決の方法、あるいはいくらかければその弱みが強みになるのか、あるいは相続について、「あなたの土地は実はおじいさんの代から相続されてなくて、実は兄弟が分与している状態」みたいなことが初めて分かるということがあります。
相続関係は司法書士さんとか弁護士さんに相談することになりますが、住宅の価値とは全く別の相談になる。これは日本の土地と建物の評価が別々に行われているということに端を発していて、アメリカやヨーロッパでは土地・建物が一体のものとして評価・利用されます。「建物だけじゃなくて、土地・建物を合わせた住宅資産としてインスペクションしましょう」「相続を控えておられるなら今のうちにこういう手を打ったほうがいいですよ」「住まないのであればリノベーションしてご近所にこういうシェアハウス運用のプレイヤーさんがいるからやってみましょう」「省エネ改修はこんな補助ありますよ」といったことを言ってくれる人が本当に求められています。それぞれのニーズに対して、適切なところにつなげる、住まいの総合相談窓口をどうやってつくっていくかが重要です。
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