講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


6. まとめ


はっきり申して、これが時代の先端でしょう

 本シリーズ「ライフスタイルを見る視点」の第43回と「ライフスタイル考現行」の「コミュニティは経済価値を持ち得るか−コーポ江戸屋敷の実験」にご登場頂いた福岡の吉原勝己さん。その吉原さんが数年前から大注目していると仰っていた鹿児島のコミュニティ大工加藤潤さんたちの新しい動き。コロナ禍が続いていたため、東京にいてオンラインでお話を伺ったことはありましたが、なかなかそこまではピンと来ずにいた私が、吉原さんの引率で初めて加藤さんのところに伺い、有木さんともお会いする機会を得たのは、2022年。その時の感動が忘れられず、気付くと今回が3回目の訪問となりました。

 加藤さんや有木さんたちの活動の面白さや新しさは、やはり鹿児島の地に来てみて、人々に会って、そして現場を訪ねてみないとわかりませんし、逆に来て会って訪ねてみると、誰でも感じるものがあるはずだと思います。私は、空き家の再生がこんなにも楽しみながら、また参加するそれぞれの人の生き方と関係付きながら進められている、そういう現場が複数あることに驚かされていますし、昨日まで電動工具に触れたこともなかった人たちを笑顔で迎え入れながら進められる建築工事があることを知り、建築行為と人との本来の関係に思いを致さずにいられなくなります。加藤さんや有木さんの現場に触れると、今の日本の普通の建築行為と人の関係が、あまりにも間接的で、どこか他人任せで、ビジネス的な性格を帯びすぎているという、いわば当然の認識に至ります。当然の認識なのですが、普段の私たちは今日の普通に慣れ過ぎてしまって、そこに辿り着けなくなっているのだと思います。

 加藤さんや有木さん、コミュニティ大工とその仲間の方々の活動には、ここからもう一度考え直そう、ここからもう一度組立て直そうという気持ちを起こさせる未来があります。はっきり申して、これが時代の先端でしょう。

(松村秀一)



プロが手を出さない(出せない)領域にこんな可能性があるとは

 松村さんのネットワークのおかげで、これまで数々の興味深い活動をされている方々のお話を伺い、現場を取材し、驚かされ、感銘を受けてきたが、今回のコミュニティ大工が最大の衝撃かもしれない。

 噂は松村さんから聞いていた。最終講義でいただいた単行本「新・建築職人論」でも紹介されており一通りの予備知識はあった。が、コミュニティ大工は想像以上だった。彼らが電動工具を使いこなして地域に作り上げたものを知ると、いわゆる参加型のDIYワークショップが(申し訳ないが)遊びにみえてしまう。

 昨年、ゼミの学生が卒論で、インスタグラムで発信するDIYクリエーターについて調べてくれた(フォロワー1万人越えの人がごろごろいるのだ)。素人が自ら作るという点で、コミュニティ大工も一種のDIYに分類されると思うのだが、活動の内容は全く違っている。

 DIYクリエーターの場合は、見栄えのする部分をどうデザインしてみせるかのセンスが一番重要であり気を配っている。ところがコミュニティ大工の方々は、床の間や栗のやの食堂の本棚など、建物の中で一番目立って装飾的だと思われる部分のデザインと工事を、あっさりと外部から来た第三者にまかせてしまっているのである。えっそこを自分でやりたくないのと聞きたくなる。注力しているのは別のもののようなのだ。

 何より、DIYクリエーターの対象が自宅のインテリアなのに対して、加藤さん達コミュニティ大工の皆さんが作っているのは、広い意味でパブリックなものであることが決定的に違う。個人の家の趣味のインテリアではなく、皆が町にあったらいいなと思う建物の工事だからこそ、鹿児島県庁の方々も含め、助っ人が沢山集まってくれるのだろう。

 加藤さんの様々な戦略や(松村さんやちきりんさんの概念をとりいれた)理論化にも唸らされた。一緒に食事をすることを大切にし、まず初日に現場にキッチンを設置し、鍋等の装備を持ち込み、加藤さん自らが美味しい食事をつくってふるまうのだ。そういえば6月にお会いした徳島県佐那河内村で活躍されている安冨圭司さん(建築家の前田茂樹さんに紹介していただいた)が作ってくださった料理も玄人裸足だった。近年の男性地域リーダーの二人が料理のプロ。偶然ではないような気がする(お二人はfacebook友達のようである)。

 有木さんが、グリーンツーリズム、南大隅町と、自分が打ち込めるもの、自分に相応しい場を見つけてこられたダイナミックな生き方、そして、地域のコーディネートという得意とする役割を発見してこられたプロセスも印象的だった。

 加藤さん、有木さん、そして今や鹿児島全体に広がりつつあるコミュニティ大工の皆さんは、プロフェッショナルが手を出さない・出せない領域に、非常に大きな可能性があることを明らかにしてくださった。久々に「長生きはするものである」と感じた。

(鈴木毅)



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