講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


7. 住宅遺産の継承と建築家
野沢:  土浦亀城自邸は、建築家の安田幸一さん達が実地調査をした後に別の敷地に移築・保存されることになりました。谷口吉生さんの雪ヶ谷の家は、改修設計に基づいて元施工の工務店が手間暇かけて誠実なレストアをしています。当時の建築家と施工者がかけた手間と知恵はすごいものがあります。例えば、この旧園田邸のように保存・継承されて残れば、納まりなどを学生達に見せ体験してもらうことも可能です。手順を踏みながら、課題も解決しながらこうしたものを残すことができた。手前味噌ですが、たいした手柄だったかなと思います。ただ、こうした継承が社会化しているわけではない。AさんからBさんへは継承できましたが、BさんからCさんに継承されるかどうかは分からない。
松村:  登録文化財にでもなれば話は違ってくるのかもしれませんが、現在の日本社会では次の継承が行われるかどうか不透明ですよね。ところで住宅遺産トラストは、これまでに何件の継承に携わったのでしょうか?
木下:  14件です。建築家が存命の場合、継承後の改修もその建築家に依頼されるケースがほとんどです。「雪ヶ谷の家」の改修は谷口さんの監修ですし、代田の町家も坂本さんがやられました。「森の別荘」も、これから妹島さんの事務所によるリノベーション工事が行われる予定です。
松村:  それは幸せな話ですね。竣工後20、30年経過してから訴えられる建築家もいたりすると聞きますから、それと比べると随分幸せ。
野沢:  無茶な設計をするとそういうこともあるかもしれませんが、継承する方々は現物を見て決断している。極端な言い方をすれば、雨が漏っていても欲しいわけですよ。



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