講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


6. 建築の価値と不動産流通
野沢:  古い住宅が建っている場合、土地代から解体費を引いた価格が土地建物の取引価格になります。だから雪ヶ谷の家を継承した方は、谷口建築をタダより安く手に入れたことになる。
木下:  坂本一成さんの「代田の町家」も同様ですね。これは借地のケースで、底地と借地権を合わせて古家付き土地として売りに出されていました。設計者の坂本先生からご相談がなければ、建物が壊されていた可能性は極めて高いと思います。
野沢:  日本の不動産流通は土地の価値しか評価しませんが、住宅遺産では建物の価値を認めた継承もいくつか現れています。
木下:  一番分かりやすいのは篠原一男設計の「から傘の家」で、建物と土地を別々に売却したケースです。敷地が計画道路にまたがっていたため、当初から建物の移築による継承を検討していたのですが、海外の某財団がその建築的価値を高く評価し、建物を買い取ってくださいました。
野沢:  住宅遺産トラストは関わってはいませんが、「谷川さんの住宅」もそうですね。誰それが設計した家が欲しいというヴィンテージコレクターが存在していて、しかもそのコミュニティのようなものもある。
木下:  「土浦亀城自邸」や妹島和世設計の「森の別荘」も同様です。ただ今のところ、建物の価値をどう値段に反映するかは難しい問題ですが。住宅遺産の場合、購入後のリノベ−ションに非常にお金がかかることも事実で、立地によってはリノベーションの費用が不動産価格を上回るケースもあります。
野沢:  少し変な言い方になるのかもしれませんが、新しい市場を作れたのかなという感じがしています。実際、住宅遺産トラストには、ウェイティングリストのようなものが出来つつあります。
鈴木:  ワシントン在住の知り合いがモダニズム住宅に住んでいます。そこを買うまで、彼女は何十件もモダニズム住宅を内見したと言っているので、海外ではそういう商売が存在しているようですね。
松村:  カリフォルニアでもモダニズム住宅がごく普通に流通しています。ですから、それらを設計したシンドラーやノイトラといった建築家の名前を、不動産業者も住まい手も知っていたりします。
木下:  日本にも潜在的ニーズはあったと思います。ただ、建築的価値が高い住宅を探す術がなかった。住宅遺産トラストの活動が新聞や雑誌などで紹介されるようになり、その存在を知った方々がHPを見たり口コミでご連絡くださるようになりました。



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