講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


2. 音楽と建築の響き合う集い
野沢:  そこで、園田邸を広く知ってもらうために「音楽と建築の響き合う集い」というコンサートと建築についてのお話をする会を開いてみることにしました。毎回の若い音楽家のセレクトや曲目のプロデュースなどは春子さんが引き受けてくれました。建築家も多くの方々が参加してくれました。内田祥哉さんや奥村昭雄さんといった方々に登場して頂いたこともあります。結果的に5年間に15回ほど開催しました。そうした比較的長い時間を園田春子さんが待っていてくれたのです。春子さんは吉村さんが設計した建物だから大事にしたいというお気持ちはあったと思いますが、木下さんや吉見さんを本当に信頼したからこそ待ってくれたんだと思います。もちろん春子さんは建築の分野にもともと明るい方ではありません。勝手な想像ですが、この建物がそこまでたいしたものだとは思っていなかったのかもしれません。宝物を持っていたとしても、身近すぎるとそんなに価値があるとは思えなかったりしますから。
松村:  その「集い」はボランタリーな集まりですか。
野沢:  そうです。最後にワインや紅茶が出て、クッキーを食べながら歓談するといった楽しい集まりでした。こうした集いを通して、春子さんは建築っておもしろいと思ってくれたんじゃないでしょうか。しかし5年近くが経過したころいよいよ、難しいかなという感じになったのです。実際、土地ごと継承するのあきらめ、建物だけの移築継承がほぼ決まりました。園田邸を移築してレストランの離れとして活用したいという話があったんです。
木下:  日本では家を開くことが難しいので、そうしたイベントを5年間継続できたこと自体に価値があったと思います。音楽ファンと建築ファンの両方が来て、園田高弘さんや吉村順三さんの素晴らしさはもちろんのこと、この建物の価値についての社会的な評価も高まったと思います。ただ、「この家を買います」という人は現れなかった。イベントを継続しているうちに、買って下さる方が見つかるかもしれないと期待していたのですが…。
野沢:  少し興味があるという程度なら、一人だけ呼ばれるよりも音楽会に招かれた方が来やすいですよね。少しふわっとした場を作って、継承の可能性のある方にさりげなく参加してもらうというやり方は、住宅遺産トラストにも受け継がれています。




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