講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


4. 所有者と信頼関係を築く
松村:  園田邸をきっかけに住宅遺産トラストが設立され、木下さんと吉見さんを中心に活動しているとのことです。お二人は玉川まちづくりハウスで出会ったんですか。
木下:  私も吉見さんも林泰義さんにお声がけいただきました。玉川まちづくりハウスは、玉川田園調布の住環境協議会の事務局になっています。このエリアにはまちづくり協定があるので、建物を建てるときは、まずはこの協議会に相談することになります。私は集合住宅のプロジェクト、吉見さんはご自宅を建てる相談に行ったのがご縁で活動に参加するようになりました。吉見さんはご自宅を建てる際、園田邸を参考にされたそうです。偶然にも、彼女がNPOのスタッフになってすぐ、園田邸の相談がまちづくりハウスに持ち込まれたというのは、今思うと運命のようにも感じます。その後、NPOが中心となり「園田高弘邸の継承と活動を考える会」が発足し、現在の住宅遺産トラストの設立につながりました。この会が5年も続き、結果として園田邸の継承につながった背景には、事務的な仕事を担当されていた吉見さんへの園田夫人の信頼があったと思います。
野沢:  そういう信頼関係は他の事例にも当てはまります。大きな財産に関わることだから、住宅遺産の所有者はその内実を秘匿しておきたい。ですから、最初の相談の段階から具体のプロジェクトになるまで何年もかかったりします。実はこうした時間が長い方が良いケースなんです。その間に良好な信頼関係を築けますから。
木下:  住宅遺産の所有者には比較的高齢の女性が多いので、吉見さんや私などが、世間話を交えながらお話を伺うということが結果として良かったのかもしれません。
松村:  違う世界の話ですが、似たようなことを聞いたことがあります。ある住宅メーカーが強い理由の一つは、セールスマンがおばあちゃんと毎日お茶を飲んでいるからだというんです。独り暮らしのおばあちゃんは、案外、自宅以外にも土地を持っていたりする。どのおばあちゃんが何処に土地を持っているのか、そこのセールスマンは茶飲み話を通して詳しく把握している。それに毎日のお付合いで信頼も得ている。だから、例えば量販店から相談を持ちかけられたとき、ロードサイドに出店可能な適地をすぐ用意することができるんだそうです(笑い)。




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