講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


2. 茅葺屋根の葺替え
岡部:  屋根の全面葺替えには茅1万束が必要と言われてます。しかし、ゴンジロウの大家さんが何となく貯めておいた茅が150束ほど残っていただけです。たまたま同じ南房総地域で茅葺屋根の葺替えがあると聞いて、葺替えとはどんな作業なのか、学生たちと下働きに行ってみたんです。できればゴンジロウ もお願いしようと思ったのですが、高齢の職人さんで、少ない茅で雨漏りを防ぐ葺替えなど相談できそうにない感じでした。その時、野村さんを思い出して金沢を訪ねたんです。非常に驚かれていましたが、ゴンジロウの葺替えに付き合って下さることになりました。野村さんは文化財の修復などにも携わっています。その場合、文化財の専門家の指導などを踏まえつつ、茅葺屋根を葺くことになります。でも茅葺屋根は、素人が身近な材料で作ってきたものです。言わば必要から始まった技術です。野村さんはこうした考え方を理解して下さって、学生たちと泊まり込みで、僅かな茅で雨漏り箇所だけを直すワークショップを引き受けてくださいました。
その後、屋根を全面葺き替えるのに5年ほどかかりました。長期作業だと参加した学生も疲れてしまう。10日間くらいが丁度良くて、毎年屋根の1/5程度を葺替えていきました。もっとも茅が足りないので、通常なら厚さ30〜40cmになるところ、その半分ほどで葺いています。葺いた茅を減らしたくないので、綺麗にトリミングしたりせず、段葺きのままだったりもします。きちんとした茅葺きなら30年間はメンテナンスフリーですが、ゴンジロウの茅葺きは10年もてばいいと割り切ってのことです。こうした経験をするまで、デザインに基づいて材料調達するものだと考えていました。しかしゴンジロウを通じて、民家はそんなものじゃないと痛感しました。今和次郎の『日本の民家』にも、民家はあり合わせのもので作られると書かれていました。知恵を絞って葺替えを実現したことで、民家に対する理解が深まったと感じています。




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