どこでどう生きていくか
前回訪ねたふるさと回帰支援センターで伺ったお話、そして今回徳島の神山町と和歌山の紀美野町で見聞きした事柄から、こういう暮らしをしたい、ああいう暮らしをしたいということが明確になっていれば、今の日本にはそれを可能にする地域と建物がいくらでも存在するのだということがよくわかりました。問題は、どういう暮らし、まさにこのサイトがテーマにしているどういうライフスタイルを思い描けるのかということです。
人が思い描けるライフスタイル(ここではワークスタイルも包含しています)には一般的に限界があるでしょう。自分自身の親しい人のライフスタイルや、場合によっては小説や映画やTV番組等で興味を持ったライフスタイルの中から、自分のこれからのライフスタイルを思い描くための参考例を得ている程度でしょう。ですが、ライフスタイルにはそれを成立させる地域が必要ですし、地域によってかなり異なるライフスタイルの可能性が存在し得ます。そのことは今回の取材でよくわかりました。この観点からすると、これまでのところ個々の人にとっての参考例は非常に少なかったのではないでしょうか。
神山町や紀美野町に代表されるように近年移住者を迎え入れる体制が整い、現に移住者が増え、その地域で暮らす人々が自分の地域の得手不得手がわかってきたところが日本の各地で増えつつあるという今日的な現象は、人々が自身のこれからのライフスタイルを思い描く上での参考例を飛躍的に増やすのではないでしょうか。そして、こうした変化を経験しつつある地域は、少なくとも今回の取材の範囲では、それぞれに相応の経験を積み重ねており、かなり地に足の着いた形での参考例を十分に提供し得る状況にあります。今回私が確認できた最も重要なことはこのことだと思います。
今回見聞きした動向について私が考える問題の核心は、空家をどうする、過疎をどうするということではありません。もちろんそれも関係はありますが、この国で暮らす、しかもこれまでよりも長い年数暮らす人々が、一体これからのライフスタイルをどう思い描き、そのためにどこでどう生きていくのかということにこそあります。今回の取材は、それが大きくプラスの方向に変わるのではないかと予感させるものでした。そして、私自身、自分の将来のライフスタイルについてあまりにも考えずにいることに、はたと気付かされた取材でもありました。
(松村秀一)
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