講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


7.ライフスタイルは身につくもの
佐藤:  先ほどバウビオロギーの背景の一つに建築物理学というドイツ流の建築教育があるとお話になりましたが、そこにはライフスタイルと結びつける視点は見いだせないとのことでした。そうすると環境共生住宅でライフスタイルとエコを結びつけたことは日本独自の展開だったのでしょうか?
岩村:  ドイツの建築教育は工学的な枠組みの中に位置付けられてきたこともあり、人文・社会科学的なアプローチをしているところは殆んどないように思います。おそらくドイツ以外も多かれ少なかれ同様で、ライフスタイル論が建築の枠組みで語られるのは日本独特の試みかもしれません。日本では今和次郎の「考現学」や、家政学部における住居学の流れもあって、それほど違和感がないのかもしれませんね。もっとも、日本でも建築とライフスタイルと関係づけて本格的に教えている建築学科は殆どありませんが。
鈴木:  バウビオロギーはライフスタイルを考えることとは違うんでしょうか?
岩村:  ヨーロッパ全体に言える事ですが、ドイツでは日本みたいに戦争前後で生活のあり方がガラッと変わったわけではありません。変わらずに連綿と受け継がれている部分が卓越しています。ですからライフスタイルといったことは家庭で身に付くのであって、学問として大学で教える必要性の意識が薄いように思います。蛇足ですが、ドイツ人の環境配慮に関する取り組みは確かに先進的で優等生的ですが、だれでもが積極的に取り組んでいるというわけでもないですよ(笑い)。
鈴木:  日本ではライフスタイルに対して女性がとても強いポリシーを持っていると感じます。
岩村:  日本では一般的に男は「生活」をしていないですからね(笑い)。深沢環境共生住宅の計画初期段階で、居住者の女性を中心にグループインタビューを行いました。私の事務所では一定以上の規模のプロジェクトの際、必ず実施する調査ですが、仙台の再開発計画でご一緒した商品開発やマーケティングがご専門の今井俊博さんから学んだ手法です。当該地域の下調べをした上で、住民の中から特徴のある属性毎にお互いに見知った4〜5人の女性に集まってもらう。そして、朝起きてから夜寝るまでどう過ごされるのかをできればどなたかのお宅で井戸端会議風にお話ししていただき、ひたすら記録するという作業です。顔見知りでも知らない事がけっこうあって、盛り上がってくるとタンスの中身まで見せていただけることもあります。お宅に入って見れば、ライフスタイルや生活の価値観は一目瞭然なんですよね。港北ニュータウンに関しても以前かなり系統的にこの調査をして実態を明らかにしたことがありますが、その経緯や結果については、詳しく公表しています。
鈴木:  環境共生住宅でそのような試みがあったのは知りませんでした。グループインタビューはライフスタイル部会から出てきた手法ですか?
岩村:  岩村アトリエとしては1980年代の仙台の再開発プロジェクトで行ったのが最初で、その後に環境共生住宅研究会のライフスタイル部会で議論しました。この手法の直接的な目的は地域における住民の方々の日常的なライフスタイルの変遷や現状をつぶさに把握することですが、世田谷区深沢の場合では、こうした調査等を通じて既存住民(そのほぼ全員が戻り入居されました)と我々計画・設計側の距離を縮め、後々まで続く良好な関係を築くことができました。いずれにしても、グループインタビューから実に様々なことを学ぶことができる、というのが私たちの実感です。



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