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鈴木: |
年代を追って環境共生住宅までお話して頂き、環境デザインのバックグラウンドがよく理解できました。最近の取り組みについてはいかがでしょうか?
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岩村: |
やはりなんといっても昨年3月11日のインパクトが大きいですね。そこで改めて気付かされたことは、我々は自然災害の狭間で生きているということです。これまで私たちが前提としてきた「平常時」とは「災害時」「災害後」「平常時」という時系列の流れの一部に過ぎない。例えば、今はやりの「コミュニティデザイン」にしても、これまでは平常時をベースに考えてきましたが、東日本大震災によって災害時の生存に関わる重要性も浮き彫りになりました。
一方、調べてみると、交通事故の死者が年間5千人弱なのに対して、家の中での不慮の事故で亡くなる方が約1万4千人もいます。東日本大震災の死者・行方不明者が約2万人ですから、住宅で日常的に亡くなる方の数は大変多い。つまり、本来安全であるべき住宅内での安全が保障されていないのです。これは「平常時」における「日常災害」とも言うべきものです。そこで昨年来、住まい・まちづくりにおける人間の安全について災害の頻度や時系列から見直し、枠組みを考え直す「安全保障住宅」の展開に取り組んでいます。これはかつて難民高等弁務官だった当時の緒方貞子さんが国連の場で提唱した「人間の安全保障」という概念に強く示唆されて命名したものです。
そして、最近様々なデータや事例と共に、安全保障住宅の全体像をムック本の『ポスト3・11 住まいの新常識 安全保障住宅をつくる』と題してまとめました。そこでは、安全保障住宅の基本フレームを「業務持続計画(BCP)」になぞらえて、「生活持続計画(LCP:Life Continuity Plan)」と呼んでいます。日本には地震だけではなく様々な自然災害があるわけで、それに対する取り組みも「戸建住宅」「集合住宅」「地区」「地域」といったスケールのレベルによって異なります。LCPは先ほど述べた3つの時系列とこれらのレベルをマトリックス状にクロスさせ、考え得るそれぞれのハードとソフトの取り組みをメニュー化したものです。その内容の多くはこれまで「環境共生住宅」の枠組みのなかで長年蓄積してきたものですが、その多くは「平常時」における取り組みです。そこに今回あらためて明らかになった「災害時」や「災害後」の課題、例えば、非常時における人命の確保やエネルギー・交通インフラやライフラインの自立、回復といった事柄が時系列で検討されました。
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鈴木: |
その「安全保障住宅」という考え方は環境共生住宅の枠組みに入れたものですか?
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岩村: |
むしろ環境共生住宅の枠組みを一度解体し、非常時と平常時の連続したサイクルに従う安全保障住宅の枠組みに入れ直したと言ってよいかもしれません。例えば、私達が従事した公営住宅団地屋久島環境共生住宅はそうした概念が生まれる前の2004年に完成しましたが、台風や豪雨による土砂災害が多い地域だったので、島の伝統的な集落に学びながら、災害への備えを最優先させた上で環境共生の取り組みを展開しましたので、このフレームに落とし込むことができました。従って、本書では屋久島環境共生住宅を安全保障住宅の例として紹介しています。本書は月刊誌『ハウジング・トリビューン(創樹社)』で安全保障住宅に関する特集号を組んだものをさらに充実させたものです。
ところで、早晩問題になるのは5500万戸あると言われる既存住宅です。これに手をつけなければ安全保障住宅の目的は実現不可能です。最近では世界で発生する地震の約20%が日本およびその近傍で起きている。そうすると「平常時」がいかに平常でない事が実感できると思います。津波の被害を昔から受け、その対策として先人が集落の高所移転を行った部分が救われた例は少なくありません。しかし、漁業に携わる人にしてみれば生業との兼ね合いがありますから、たまにしか来ない災害時のことだけを考えるわけにもいきません。それでも、今回集めたデータからは、戸建住宅の場合、津波の高さが2.55m、つまりほぼ一階分を超えると、全壊や半壊の被害が急増する事が分かりました。高所移転が困難な場合、そうした実態も踏まえてどう安全を保障するのかが問われているのですね。
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