講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


4.「環境共生住宅」の射程
岩村:  1990年代は92年のリオで開催された「地球サミット」などを契機に、各国で地球環境問題への関心が高まり行動に移された時期です。日本では1990年に当時の建設省が産学官の連携プロジェクトとして「環境共生住宅」に取り組み始めます。当初の研究会では「エネルギー部会」、「住宅のつくり方部会」、「ライフスタイル部会」の3つの部会が設置され、総合的なアプローチで理念構築と具体的な課題の洗い出しをしました。私は3つめのライフスタイル部会の取りまとめを担当しましたが、社会学、精神医学、環境学習、マーケティングなど、多くの関連領域の専門家と連携しながら実に多くのことを学びましたし、この部会の存在によって「環境共生住宅」という概念の裾野を広げることができたと考えています。その初期の成果の一つとして1997年、東京都世田谷区に竣工した「世田谷区深沢環境共生住宅」は、理念・方法論・実践の各レベルで具現化したものと言えます。

もっとも、そのような試みが広がる一方で、一般的な建築設計者の環境への関心はまだまだ低かったと思います。日本建築学会でも地球環境委員会はありましたが。規模は小さく、学会の中心を占めていた構造分野に至ってはこうしたテーマには全く関心がなかったと言ってよいでしょう。しかし、2000年を前後して、状況が動き始めます。やはり1997年のCOP3 京都会議で作られた京都議定書の存在が大きかったのでしょう。地球温暖化を防止するためのCO2排出削減を政府も主要な国際課題として考えざるを得なくなったのですから。その一方で、そもそも環境共生住宅が描いた総合的な住まい・まちづくりの概念が、定量化しやすいエネルギーやCO2排出削減に焦点を当てた政策課題に特化されてしまったきらいもあります。



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