「ライフスタイルとすまい」、西田さんの実践
今回はこの「ライフスタイルとすまい」を鈴木毅さん佐藤考一さんとともに続けてきた西田徹さんと奥さんの「都心に家を建てて暮らし始めました」編です。
大阪に詳しくない方には伝わりにくいかもしれませんが、西田さん夫妻が暮らし始めたのは、大阪の都心そのものです。大阪市の中心部のうつぼ公園に近く、周りにはマンションも少なくありませんが、これまで、閑静な住宅地である芦屋市に住んでいた二人が引越す先としては実に意表を付いています。
まちに開く暮らしというのがそのコンセプト。建物中央部に表通りと平行して階段を配し、その前後で空間の性格を分け、前方の空間をまちに開くというその考え方は、日本の民家の空間構成とよく似ています。1階が、近所の人がすっと入ってくる土間、2階が、訪ねてきた人が気軽に腰掛けて会話を弾ませる縁側といった感じでしょうか。実際、1階には近所の子供たちが集まってきて、奥さんが習字を教え始めていますし、2階には、将来気軽なカフェのようなものにしたいと、西田さんは本格的な業務用厨房機器を揃えています。
「『コンバージョンやリノベーション等、ストックの再生こそ時代のテーマ』と仰っている松村さんには、申し訳ないですが、やっぱり家は建てるに限ります」と西田さん。夫妻の幸せそうな顔を見ていると、そりゃそうだろうなと納得せざるを得ません。「建てる」という行為そのものは、人生の重要な一部を構成するとても人間的な行為なのです。「建てる」行為を暮らしから切り離し、建てられたものの中での暮らしだけを「ライフスタイル」として取り出すのはおかしいぞというのが西田さんからのメッセージです。
「職人と話すのがとても楽しかったです」と西田さん。代理人を介さない直接的行為者同士のコミュニケーション。住宅建設が産業化する中で見過ごされてきた本質のようなものを再発見した経験談としてとても大切な言葉だと思います。
まちに開くという暮らし方とは別に、自分のために「買う」のではなく、自分のために「つくる」時間を持つ暮らし方。その楽しさ、その価値を強く感じさせられる西田邸訪問でした。さて、私はどうしようかな。
(松村秀一)
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