今回は、木造住宅を250軒以上も設計してきた三澤さんご夫妻に、最近の住まい手のライフスタイルに関してお話を伺うつもりで千里ニュータウンまでやってきた。ところが、ライフスタイルという観点では、住まい手の話ではなく、ニュータウン内に文字通り職住近接で暮らす三澤さんたち自身の話が一番の収穫だった。
文子さんは「ここに住んで本当に幸せ」とおっしゃる。自分の居住環境に関して、しかもそれを造る専門家の方から、これほどダイレクトで衒いのない発言を聞くことができたのには少々驚いた。本当に幸せなのだ。人それぞれにどういう状態を幸せというかは微妙に違うだろうが、話を聞けば聞くほど「なるほど、なるほど」と得心させられる。お二人の話には、既に熟成した住宅地になりつつあるかつてのニュータウンでのライフスタイルを豊かにイメージさせてくれる具体的なヒントがてんこ盛りだった。
その数々のヒントに共通する背景を一言で言えば、徒歩圏内での人間関係の複層性ということになろうか。徒歩圏内に食料品店、風呂屋、ジムがあり、近所の人が気楽に立ち寄れる喫茶店や会合空間(事務所の打ち合わせスペース)を自ら運営しているということ、そして何よりも職住近接により日中もそこで暮らしているということ、それが地域内での人間関係の複層性を成立させている。
遠距離通勤を強いられるサラリーマン、ましてや単身赴任の人々にはまねのできないスタイルではあるが、自らが高齢化する将来、「ここに住んで本当に幸せ」と言い切れるようになるためには、日々のワークスタイルに関する心がけ、家と町の間のちょっとした空間のしつらえ方等、今からでも前向きにできることは色々とありそうだ。
(松村秀一)
|