講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


9.木の家づくりの楽しさを共有する
三澤(文):  木造住宅は、林業家も含めたリレーみたいなものです。ゴール目指してバトンを渡していくように、一緒になって作って行った方が楽しいし、良い物にもなる。
三澤(康):  設計者より林業家の方が楽しいんじゃないかな。これまでは伐採して、原木市場で高かった安かったというところで終わっていた。その後は自分の山の木がどこに行ったのか分からない。でも一般の人が木を買いにやってきて、その人から手紙が来て、「やっとできました。一度来ていただけませんか」なんて書いてある。中には「乾燥材と言ったのに乾燥していなかった」とクレームをつけられる林業家もいたりしますがね。
三澤(文):  木というのは自然素材ですから、どうしても予想外の事態が起きてクレームが出てきます。そうすると、そこから感情的な対立を生じさせない工夫は必要です。住み手も巻き込んだ家づくりの物語りの中で、関係者がチーム意識を持つようになってくれば、非難してもいやらしくない。ちょっと反省した方がいいよ、くらいで済みます。
三澤(康):  Msでは木拾いした木材の含水率をチェックしに行きます。うちのスタッフを見ていても、そうしたときの実感が楽しさのもとになっているように思えます。計るまでもなく含水率60%と20%とでは持てば分かるじゃないですか。重さが全然違いますから。それが実感できると楽しい。言葉にするのは難しいですけれど、木は一本一本の色肌が違います。次第にそれも分かってくる。
三澤(文):  見続けると物の違いが分かってきます。各部材に使う木を決めることを木配りと呼んでいますが、そうした選木作業をほとんどスタッフにさせています。そうして配置を決めていった木材が組み上がると、大きな達成感があるようですね。
松村:  お客さんはどうですか。ついてこられますか?
三澤(康):  山まで行って自分たちの家に使われる木を見てもらう活動はMsを始めたときからやってきました。最近では新建ハウジングや住宅新聞を見ても多いですよね。「満足度のある家作り」とか、「本物の木の家作り」とか。そういう取り組みが増えたのは良いことだと思います。
三澤(文):  選木作業に参加したいというお施主さんもいます。少し前のことですが、ぜひやらせてくれと言って、岐阜の山奥にまで来てくださった夫婦がいました。山の木を見たいとか伐採を見たいというお施主さんは少なくありません。ですからとりあえず誘うことにしています。
三澤(康):  子供連れでこられるお施主さん家族もいますね。
西田:  話を伺っていて、牧場と契約しているレストランがそこの牛肉を使った料理を出すことと近いかなと思いました。消費者と生産者とその中間に位置する料理人とが一体となって食生活を作っていく。主流になるかどうかは分からないとしても、かなり支持を集めてきていますよね。すでにスーパーでは生産者の顔写真がついた生鮮食品が売られています。住宅づくりでもそうなっていく工務店が増えていくのかもしれませんね。
松村:  でも産地に結びつけるまでが大変ですよ。自然にそうなるかというと、やる気のない工務店にはできない。おそらく設計事務所もそうで、やらないで済まそうと思えばそれで済むでしょうから。
西田:  やはり消費者の意識が上がる必要があるんでしょうね。そうすれば、ここまでするのが普通でしょというようになる。
三澤(文):  私たちがこういう話しをすると、三澤さん達だからできると言われます。でもそんなに難しい事じゃない。林産地にはキーパーソンになる人がいますから、そういう方と知り合うことから始めればいい。現地へ行って話をしていると、なんだかんだと乗ってくる人がいます。そういう人を見つけて、その人の山を見せて下さいとか製材所を見せて下さいって言ったりするところからぐっと開けてくる。でもその第一歩に躊躇する建築関係者が多い。ですからルート作りを手伝うバスツアーの企画もしています。まあ、お見合いの仲人みたいなものです(笑い)。



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