講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


7.世のお父さんが忙し過ぎる!!
三澤(康):  千里ニュータウンの建替え市場は、圧倒的なシェアを住宅メーカーが占めています。家そのものが評価されて住宅メーカーが選ばれているならまだしも、営業マンが熱心だからという理由で建替えを頼む相手が選ばれている。一体いつになったら、住むことに本気で関心を払うようになるのか、そしてそのためにはどういう事をすればいいのかと考えさせられます。
松村:  住宅メーカーの営業マンは力強いですからね。ちなみに現在の住宅メーカーでは、技術者出身の役員のいない会社が増えています。理由を聞くと、営業はゼロから仕事を生み出しているけれど、設計は取ってきた仕事に何かをするだけだからと言うんです。
三澤(康):  そうでしょうね。住宅メーカーの商品を比較しても、性能や設備は一緒です。価格もそんなに変わりません。するとセールスマンが男前だったとか、感じがよかったという判断材料しかない。住宅を単に物として捉えればそうなります。つまり「住まい」というのは、商品構成じゃなくて、その人の生き方そのものなんだという意識を持つ人が非常に少ない。他のことに関してはもっとバランス感覚が働くのに、住宅に関してはそうならない。
三澤(文):  教鞭を執っている岐阜県立森林文化アカデミーでは40歳代の社会人学生がいます。その学生たちとある木造住宅を見学に行ったら、その周りは住宅メーカーの商品で埋め尽くされていた。どうしてだろうかって話し合いましたら、社会人学生が言うんです。僕たちもやはり住宅メーカーで建てましたって。朝から晩まで忙しく働いていると、考える時間がない。だから新聞に広告が出ている住宅メーカーの中から選びましたって。

世のお父さんが忙し過ぎる。家づくりがちゃんと考えられない理由はこれだと思いましたね。女性を軽視するわけじゃありませんが、家庭の大きな買い物の決断権は男性が持っています。その男性に考えている暇がない。家づくりは一大プロジェクトです。資金繰りから何から本気で考えたらもの凄いエネルギーが要ります。でもそれを絞り出す余力がない。

家庭料理と似た構図です。料理をするのがしんどいから出来合いの惣菜を買ってくる。そういうものばかりを食べていたらよくないのは分かっている。けれども今日はこれで済ましちゃえってスーパーで買ってくるわけでしょ。そういう気持ちになるのと同じです。それをしたらいけないと私は思いますが、そういう女性も沢山います。
三澤(康):  職住隣接はそこに気づく契機になるんじゃないですかね。地域で職業を持ってそこに住むと、住むことと生きることとが強く結びつく。すると住むことにもっと関心を持つようになって、住まいの本質を考えるようになるんじゃないかと思います。
鈴木:  若い世代は少し変わってきている気もしますが…。
三澤(文):  それは思います。私たちのお施主さんでは、35歳くらいで幼稚園児の子供さんがいるような年齢層にそうした方が増えている感じがしますね。



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