講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』
山治織物工場でのコンテンポラリーアート−yamajiorimono*works
西村雄輔さん
アーティスト。ある場所で起こる変化を観察し、それに基づく即興的な行為で場所の持つ記憶や時間との関わりを提示している。2006年から、群馬県桐生市にある山治織物工場で現在進行形の制作活動yamajiorimono*works を行う。
山ア裕之さん
山治織物工場主。1987年に操業を停止するまで山治織物に従事。現在はシステムエンジニアや布を用いた商品開発などをする傍ら、西村さんと共にyamajiorimono*works で作業を行う。
石井理絵さん
西村さんや山アさんと共にyamajiorimono*works の活動を行う。また主に写真と文章によりその活動を記録し、それを詩的行為として追究する。

yamajiorimono*works について
「私達は19年の停止期間を経た織物工場があらためて息をするために、自身の日常的な営みの延長にあるものとして14年間様々な行為を重ねてきた。基本的には工場内にあったものを外に出す作業だったが、それは物が無くなるように見えながら、この場所の空間そのものをつくる行為であった。この先に形として何が残り、何が無くなり、空気として何が残り、何が無くなり、何が生まれているのか。また、これまで行なってきた様々な行為がどのようにこの先変化していくのか。徐々にではあるが新たな物語が生まれつつある。勿論、過去からの歴史を刻みつつ、今を生きて変化している。行為を重ねてきた上で過去=現在=未来と地続きで繋がることができる。この物語を確かなこととするために、今この活動に対して現在どのような位置に自分たちがいるか確認する時期に差し掛かっている。この場は、その問いとその時の応えを乗せて、これからも変動する。形を変えるために動くのではなく、動くことで内から変化していく。私達はこれらの行為による変動をyamajiorimono*works の主軸と考えている。」(西村雄輔)



1. 織機を鳴らす/場を動かす
2. 織機を分解する/光を導く
3. 床を磨く/履歴を読む、機械油を削る/空気をあらう
4. 整経場を分解する/空をひらく、漆喰を塗る/記憶を呼び覚ます
5. 床をはつる/場を確かめる
6. 「場から生まれる」をつくる
7. 「長い時間をかけた解体」という視点
8. 活動を通して自分を見る
9. 広がりのある小さな物語
10. まとめ



1. 織機を鳴らす/場を動かす
松村:  最近は余った建物を空間資源として使いこなす人々が現れ始めていますが、西村さんは、いわば空き建物に手を入れる作業そのものをコンテンポラリーアートにするという独特な取り組みをされています。こうした活動を、工場主の山アさんと一緒に始めたきっかけなどからお話し下さい。
西村:  山治織物工場に関わるようになったきかっけは、2005年の「桐生再演11」です。桐生再演というのは1994年から続いているアートプロジェクトで、作家たちが桐生に短期滞在し、市内各所で制作と展示を行うものです。その11 回目の時に山アさんから「私の所にも使っていない工場があるんだけれど…」と声を掛けて頂きました。当時の山治織物工場は操業停止から19年経ち、大量の不用品などが溢れていました。展示を行うには厳しい状況でしたが、それでも何かできないかということで、止まっていた織機を2 台ほど動かすことになりました。止まっていた場を再度スタートさせるという思いで、糸を掛けずに動かしてみたんです。
山ア:  糸を通さずに織機を動かすのは初めてのことでした。織機は経糸(たていと)に緯糸(よこいと)を織り込むためにシャトルという部品を行き来させますが、その仕掛けに不足する部分がありました。初期のコンピューターはパンチカードで動かしましたよね。その起源になったのが織物の模様を指示する紋織の仕組みで、穴を開けた紋紙というもので経糸とシャトル(緯糸)を制御します。ですから、長年止まっていた織機を調整するだけでなく、糸が掛かっていないシャトルを飛ばすため、紋せんという部品を自作したりもしました。
西村:  2006年の桐生再演12 では、そうやって織機を鳴らしてみたんですが、個人的には近隣の人にその音を聞かせたかったんです。
山ア:  この町には、かつての織り子さんなどがたくさん住んでいるので、織機の音がすれば機織りが盛んだった時代を思い出したりします。実際、音に誘われてここに入ってこられた方もいらっしゃいました。




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