講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


10.まとめ


「ユートピアとしての郊外」。今回のお話は色々と勉強になりましたが、一番記憶に残っている言葉です。「ユートピア」はやや時代にそぐわない言葉ですが、その意味を現代的に解釈することが重要だと思います。

座談会の中でも触れましたが、私自身は「つくる生活、生産する郊外」と称して、既存住宅の手直しも、食糧生産も、エネルギー生産も、水の再利用も、廃棄物処理も、全部楽しみながら自分たちでやってしまうような場の創出を、既存郊外住宅地の再生で実現できないものかと考え始めています。これも新しいライフスタイルを念頭に置いた現代的なユートピア構想になり得るものと勝手に納得しました。

もう一つ記憶に残ったのは、道に沿った単位で郊外の生活空間のまとまりを考えるのが妥当だという先生のお考え。これを聞いて漸く「つくる生活、生産する郊外」にも、空間的なイメージが結びついてきそうです。

郊外で育った者として、ユートピア構想としての起源とは無関係に展開してしまった郊外を、元の構想に近づける夢を語るのに躊躇することはない。今回の座談会を通して、その思いを一層強くさせられました。
(松村秀一)



日本の郊外の歩んできた歴史,その理念と実態の変遷,そして郊外が現在抱えている課題とそれに対する試みまで,角野先生は鮮やかに概観して下さった。

現在ニュータウンの再生として話題になるのは、団地の建て替えや地域の活性化などである。これらもたいへん困難な課題であるが,それ以上に、今回指摘された,郊外における人口減少の問題,世代間継承の問題は難しい課題−おそらく最大の課題−であろう。あらためて思い知ったのは、戦後の郊外住宅地はまだ代替わりをこなしていないという事実である。様々な場面で持続可能性がキーワードとして議論されるが、居住地の社会自体の成立という最も根本的な条件が問われているのである。ある地域に人を呼んでくるのは並大抵のことではない。都心回帰の風潮のなかで、開発後数十年を経た郊外に新たな人々を呼び込むためには、角野先生がとりくんでおられるような、転入をサポートする柔軟かつ強力なプログラム、そしてあるヴォリュームの人々が共有できる物語(ブランド)が必要だろう。いわゆる,LOHAS系の自然志向、あるいは松村さんが注するDIYなどは、物語の一つの可能性だろうが,こうしたライフスタイルが本当に地域のブランドになりうるためには、やはり既に存在している地域の文脈との関係づけなどが重要になってくるだろう。
(鈴木毅)



たまに実家に帰るとやることもなく暇なので家の近所を散歩している。その町は私が幼稚園から高校時代までを過ごした大阪南部にあるニュータウンで,昭和40年代に誕生したベッドタウンである。散歩をしていて気づくことは,基本的な町並みこそ20年前と変わらないものの最近「いかにも二世帯住宅」という大きな家が目立ってきたことである。母からの情報だと,古くなった家を二世帯住宅に増改築して息子夫婦家族と住んでいるという。ニュータウン第二世代として家と町を引き継ぎつつあることは評価できるが,どう考えても景観的には美しくない。しかし,65才以上の老夫婦・単身世帯が30%を軽く越えているという話を聞くと,とりあえず景観よりも人が住み続けることの方策が求められていると言える。さしあたり実家の課題としては,80坪程度の狭い敷地に,車2台分のガレージを用意し,景観を配慮した2世帯住宅をローコストで計画することだろうか。
(西田徹)




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