講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


6.郊外住宅地に新たな居住者を集める仕組みとは?
鈴木:  それはもう動いているお話ですか?
角野:  まだまだです。案を練っている最中です。
鈴木:  中古住宅の売り方の提案ということですか?どこが主体となるのでしょうか。
角野:  まさにそれを検討していて、「くらし・住まい相談センター」というようなものが作れないだろうかと考えています。つまり、家を買いたいという人が中古住宅市場にアクセスする場合、通常、住宅情報誌で情報を集めたり、新聞の折り込みチラシを見たりして、仲介業者に行きます。仲介業者はいろいろと物件を紹介するわけですが、彼らに集まる物件は偏っていて、育児世代の人々には非常に狭かったりします。ですから、なかなかフィットしないし、あくまで単発の紹介で終わります。しかも、売主が秘密裏に売りたいというケースもあったりして、住宅市場に公開されないことも多いのです。

一方、地域の自治会や街づくりを行っている団体は、コミュニティーを活性化させようと一生懸命がんばっているんだけれども、新しい住人を受け入れようという活動にはならない。でも、地域のことはものすごく良く知っている。ですから、そういう人々と仲介業者などが協力して、お互いに客や情報を共有できるような仕組みづくりが必要なのではないかと考えています。

例えば、家を買いたい人が現れたときに、自治会館や仲介業者を訪れれば、この町はこんな町ですとか、小学校はこんな様子ですとか、行政のサポート体制はこうですというように、ライフスタイルに関わる情報を具体的に伝えられる仕組みづくりが構築できればと思っているのです。例の多摩ニュータウンの「フュージョン長池」の富永さんが良く似たことを考えていらっしゃっていて、この四月から活動を始めるとおっしゃっていました。

さすがに、そのような組織をいきなりは作れないので、社会実験的にできないかという話を持ちかけました。「町博覧会」と呼んでいますが、早い話、中古住宅フェアです。中古物件を持っているディベロッパーと共同で、空き物件の紹介を盆踊りや秋の様々なお祭りの時期に行うわけです。町の様々な魅力を外に発信する催し物を開いて、お祭り騒ぎ的に客寄せキャンペーンができないかと思っています。今もいろいろなお祭りや地域行事が行われていますが、あくまで地域の人々だけが楽しむものですよね。それを地域の仲介システムとつなげることによって、新たな居住者を獲得していく仕組みづくりができないものかということを考えています。
松村:  僕も似たようなことを感じていました。奈良県にG団地という、昭和40年頃に建てられた200戸ほどの団地があります。開発から30年ほど経過したタイミングで調査をして、それから10年ほど経ってから追跡調査に行きました。すると、角野さんがおっしゃったように、空き家も増えてきていました。自治会長さんにお話を伺うと、「夏休みに40年間続けてきたラジオ体操が来年当たりからできそうにない」とおっしゃる。子供がほとんどいないような状況です。家業があって定住するという必然性があれば別ですが、そうでなければ家を代々受け継ぐことはありえない。誰かが引っ越してこない限りどうにもならないなぁと実感しました。

僕は団塊の世代に着目しています。彼らが退職したときに、東京郊外の戸建住宅地で、自給自足の要素を盛り込んだライフスタイルが送れるようにはならないかと考えています。要するに、エネルギーが自給自足できて水も循環できる住宅で、DIYや農業を行うようなイメージです。私鉄沿線の住宅地がへこんできて、鉄道を中心として大規模小売店舗などを展開してきたこれまでのビジネスモデルが成り立たなくなってきている。ですから、どうにかしてエリア全体の価値を保持し続けなければならないというインセンティブがディベロッパー側にもあるでしょう。

そこで、角野先生がおっしゃるようなグループ単位で、自立型生産技術を盛り込んだ住宅に変えて、町のイメージを数年間かけてまるごと変えていくというようなことをやりませんかと、ディベロッパーに声をかけてみようかと思っています。



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