郊外住宅団地の実態と再生

「郊外住宅団地の再生〜コトづくりから住民主体のまちづくりへ〜」

 
成熟研委員:団地再生に取り組むにあたりまして御社の中で仮説をおつくりになったと思うのですが、4,5年おやりになって、仮説通りに進んでいるのか、あるいはやってみたけど大きなハードルがあってもう一回作り直してという色々なプロセスがあると思うのですが、その辺りはどのようなものでしょうか。
瓜坂氏:仮説通りです。難しいだろうな思って始めました。私も営業は20数年やってきましたから、1年や2年で答えは出ない、10年くらいのスパンでやらないといけないというふうに最初から思っていました。会社にも多分今すぐ利益はでない仕事だと言われていたのですけど、ありがたいことに会社もこのまま郊外団地を放置はできないだろうなという考えでした。そうは言ってもそろそろ限界になって、答えを出さないといけない時期にこれから入ってくると思います。ただやっぱり分かってきたのは40年くらいブランクがあるわけですから、1年2年で信頼関係を構築するというのは不可能ですね。ただタイミングがある意味良かったのは、5年前であれば、 皆さん若いから、お前ら必要ないって言われたと思います。ちょうど我々が伺ったのが、そろそろ夏祭りも自分達だけで運営ができなくなりつつある、見守りネットワークのメンバーの一番若い人が70歳になったという時期に差し掛かったときでした。自分の将来がだんだんと実感として予測できるようなタイミングで、パートナーとしてはやっぱり大和ハウスでしょうと言われたのです。
成熟研委員:実際には若い方がどれくらい入ってきていらっしゃるかというところと、ご高齢の方との価値観が違うとかあると思うので、実際に上手くいっていることを、参考に教えてもらえればと思います。
瓜坂氏:上郷ネオポリスでは戸当たり狭くても60坪、広いところで100坪くらいの敷地面積があるのですが、建築協定で敷地分割できない区域もあります。一区画が30坪とか40坪とか小分けにして売っている地区では売れています。横浜市の中で一番坪単価が安く、小さい区画であれば若い人でも手が届かないことはないし、横浜の関内や横浜駅にそんなに遠くないわけです。車さえあればいいところで、可能性はあります。ただやっぱり自治会に入らないとか近所付き合いをしたくないとか、そういうような方はいらっしゃるので、そういう人たちのために子育て支援の拠点や、コワーキングスペースをつくったりしながら、まちのなかの活動に参加してもらうことを我々が仕掛けていかないといけないなと思います。よその町にはないようなものを、どんどん提供していくことが、若い世代を巻き込んでいく必須条件だなと思っています。
オブザーバー:信頼を得るために御社が居住者と大学や企業とのハブ機能をもつというお話がありましたが、居住者の年齢がもう少し上になると困りごとというか、負の相談も入ってくると思いますし、ハブ機能という時に、居住者側に対して何をされたのか、どういう機能も持たれたのか。どのような企業との具体的連携等でハブ機能になられたのか、その枠組みを教えていただきたいと思います。
瓜坂氏:ハブ機能ということで、企業に関してはNTTさんやソフトバンクさんなど、いろんな企業が興味を持たれています。無人で動くものや、安否確認のシステムの実証といったお話をいただいています。まちづくり委員会は高齢者の方が多いのですが、委員会のメンバーだけで話し合ってもお話が広がらないため、全居住者にも薄く広くまちづくりに関心を持ってもらいたいわけです。例えばスポーツメーカーがウォーキングシューズを開発しようとしている、ではそのウォーキングシューズを20人30人に履いてもらって3ヶ月間毎日5000歩ずつ歩いてもらってデータ取りをする。それを世代に分けてデータ取りをすることで、それが商品化のヒント、データになっていく。実はそれもまちづくりの一環という、非常にハードル下げた形でのまちづくりへの参加、意識みたいなものを我々がハブになって誘っていこうと考えています。料理教室で皆に食べてもらうとか、そういう仕掛けをやっていくと食品メーカーも試してほしいという色々言ってくるわけです。
吉田座長:介護施設の優先入居権は我々も検討していまして、将来介護になってからじゃなくて、70代後半の方が今のうちにお金出しておくという行為があるということに、我々も気づいています。介護になったら1000万払って入るということではなく、300万でも400万でも先に払っておけば、後は管理費だけ払うというのは需要があると考えています。
瓜坂氏:皆触れたくないお話ですが、やはりお守りが欲しいのですね。そこを表立って、もしこうなったらどうしますなんて言うと怒られてしまうのですが、システムの中でそれとなくそれが付いている、会員制組織みたいな形で会費を頂けないのかということも考えています。介護を強調するとなかなかお金を出さないですけど、こんな楽しいことがあるということには皆さんお金を出すようです。そこを上手くパッケージ化することができればなと思っています。
園田教授:上郷ネオポリスで大和ハウスさんは絶大な信頼があるので、私の役割は、スパイスというか塩みたいなところで、居住者の皆さんにみなさんが頑張らないとどうにもなりませんよとか、大和ハウスさんを逃しちゃいけませんよとか、割と辛口のことを申し上げています。協議会には東大の小泉先生の院生や私の研究室の院生も参加していますが、この前ちょっとしたエピソードで、院生から「何が上郷ネオポリスに住む魅力なのですか」と居住者の皆さんに問いかけました。すると、次の回には、皆さんがすごく考えて上郷ネオポリスに住んでいる魅力はこうだとお話になったとことです。上郷ネオポリスの魅力を本当に分かってもらおうということで、とても熱いパッションを感じました。ですからいろんな人が関わるところで可能性が生まれてくるのかなと、ご一緒させてもらった私も刺激を受けました。もう一つは、多分一番瓜坂さん達が苦労されていることは、社内的になぜやっているのか、それはビジネスになるのかという圧力がとても大変だと思うのです。それを今日色々ご紹介があったことを私なりに見ると、実は上郷ネオポリスはとても条件がいいのですね。確かに丘陵地ですけれど、地形が緩勾配です。横浜市が管理している公園やプールがあります。アメリカのゲイテッドコミュニティに行かれた方はご存知かと思うのですが、プールやクラブハウス、公園というのは、ゲイテッドコミュニティのマスト要素で、横浜市としてこれを永続していくことは困難だから、大和ハウスさんがこの公共施設を全部引き受けてマネジメントするということになると、今までとは違う形の可能性が生まれるということです。すぐ隣に鎌倉カントリークラブがあるのですが、鎌カンにコラボしに行きましょうと、私もずっと言っているのですが、ゴルフ場がすぐ隣にある住宅地ということにかなり可能性があります。そこまで広げていくとビジネスモデルとしての広がりがすごく変わってくると思います。その原型として、最近私がよく申し上げているのは、三菱地所が百数十年間、丸ビル界隈で、ずっと不動産を持ち続けて、テナントの入れ替えや建物建て替えを行っています。上郷ネオポリスではいわば丸ビルが面的に広がったものであると思えば、ここから100年の経営として、ビジネスが成り立つのではないかということを申し上げています。大和ハウスさんの居住者の巻き込みというのはすごいですけれど、100年経営のために住民に出資者というか、会員よりもうちょっと上の経営者、株主的なものになってもらうこともあるのではないかと思うのです。自分達がそれに投資しているわけなので、経営は経営のプロにお願いするという組織ができると、そこに住んでいる人とビジネスする人、経営を担う人のwin-winの関係ができるのではいかと思います。


以上