郊外住宅団地の実態と再生

「郊外住宅団地の再生〜コトづくりから住民主体のまちづくりへ〜」

 

(3) 郊外団地再生の新しいアプローチ

 これは反省点ですが、40年前に40年後を考えたまちづくりを行っていたのかということですね。言葉は悪いですけど、焼畑農業のように次から次へ団地を造成していった。もちろんメンテナンスだとかリフォーム・建て替えもやらせてもらっていますが、まち全体の5年後10年後を見据えてきてはいないですね。昭和49年分譲当時のカタログを居住者の方が大事に持っておられたものを見せていただきましたが、「空からもご覧下さい。豊かに成長したネオポリス、湘南に息づく新しい街。」というコピーが書かれていました。本当は湘南ではないのですが、加山雄三みたいな言葉で売られていました。しかしカタログに描かれていたショッピングセンターにお店は1件もなく、小学校は廃校になり、公園は雑草がぼうぼうに生えています。ここで僕が声を大にして言いたいのは、この新聞記事を居住者の方が大事に持っておられたんですね。弊社にはもうないです。カタログをよく見たら自分の買ったところに赤い丸をつけているのです。いかにこのまちを愛していたのか、どんな夢を持って30代の当時住まれたのかを思った時に、これはもう何とかしないといけないと考えました。しかし、「荒れ地に苗は育たない」といいますが、40年ぶりに僕らが現れた時に、「何しに来た」「久しぶりに現れたのも、俺らが歳いってきたから家を建てろとかリフォームしなさいとかいうのだろう」という反応で、ものすごくアウェイな感覚でした。もう5年前です。
 そこで地域住民に対するアプローチの仕方を変えました。弊社がハブになり、ハブになって産・官・学と居住者をつなげることで信頼関係を構築する取り組みを始めています。地域居住者と弊社でまちづくり協議会をつくり、さらに大学や企業の間とコンソーシアムをつくり、我々が情報を提供していく形をつくりました。
 2014年には、「見守りネットワーク」委員という自治会の窓口と意見交換を始めて、2015年には自治会内に「ネオポリスまちづくり委員会」が正式に発足しました。2016年には自治会と弊社で「上郷ネオポリスにおける持続可能なまちづくりに関する協定書」を締結し、まちづくり委員会・弊社・大学有識者などで構成する「上郷ネオポリスまちづくり協議会」が発足しました。協議会のアドバイザーとして明治大学園田先生、東京大学小泉先生をお招きしています。協議会は月1回の定例会を行っています。協議会には横浜市・栄区にも来ていただいています。
fig2  2015年のまちづくりキックオフイベントでは、脚本家の山田太一さんに講演に来ていただきました。山田太一さんがおっしゃった中で印象的だったことは、「こういうまちづくりしようというときに、こういうことした方がいいんじゃないか、という言いだしっぺが出てくるだろう。言いだしっぺの意見をつぶさないであげて欲しい。」ということでした。そうしたら本当に、1週間もしないうちに20人くらいの人がまちづくり委員会をつくろうと立ち上がった。月1回のまちづくり協議会に、まちづくり委員会の方々はフルメンバーで参加され、熱心に取り組まれています。明治大学園田先生には2017年、廃校になった小学校の図書館で特別講義をやっていただいたのですが、多くの居住者が集まり、盛り上がりました。居住者自らの勉強会も行っています。
 2017年1月には「第1回全住民意向調査」を実施しました。回収率は実に88%でした。チェック項目は5項目と少ないアンケートでしたが、最後のA4用紙1ページに好きなこと書いてくださいとしたのですが、回答者の3人に1人がたくさんのことを書いてくださいました。
 明治大学園田研究室にはアンケート結果と、地区の建物の履歴、造成当時から今に至るまでどれだけ建物が変化しているのか、世帯主はどれだけ変わっているのかを分析していただきました。分析によって、今後どんな変化が起きるのかが予測できて、色々な提案ができるのですね。そろそろ何かが起こるのではないのかという段階に入ってきております。アンケートでは、回答者の80%以上の方々が、住み続けたい、あるいは分からないと回答しておられました。多くの方々が基本的にはこのまちを愛しており、できれば住みたいと考えておられるようです。
 年1回の夏祭りには我々も協賛させていただいきました。2日間で3,000人から4,000人の方が集まります。息子さんたちが孫を連れて来られるのですね。運動場は子ども達でいっぱいになります。盆踊りやハワイアンなども行われます。