スウェーデンのコレクティブハウスにおける
 共食活動の運営と環境

 

WGメンバー:スウェーデンの人口増の背景はどのようなものでしょうか。
水村教授:2つあります。実は出生率が右肩上がりになっていて 、その理由は育児手当の充当、特に女性の就労支援を厚くするというものです。もう1つは移民の受け入れです。スウェーデンはEUの中でも移民を多く受け入れています。移民受け入れで生じた社会問題があり、極右政党が台頭ということも生じていますが、もともとが1千万人規模の国で労働人口が足りないので、正規ルートでの移民は受け入れていると伺っています。
成熟研事務局:コレクティブハウスの居住権は流通しているのですか?
水村教授:90年代の規制緩和で売買できるし、銀行融資もつくということになり、日本の区分所有権と同じように流通しています。
成熟研事務局:居住権が流通すると、新しく入った方の生活スタイルの違いとかが、問題になることはありますか?
水村教授:コレクティブハウスの中には入居者選定委員会をつくっているところがあります。入居希望者リストから次の入居者候補を選んで、ミーティングやヒアリングで住宅の主旨の理解やコモンミール活動参加の意向などを確認の上、入居を受け入れるということを行っています。こういう方法をとるには、やはり自治体の理解が必要で、自治体が理解していないと、コレクティブハウスをやめてしまうということになります。
WGメンバー:日本のシェアハウスでは、運営会社がお世話する立場で調整しないと、住民に運営を任せると、住民間で派閥が起きたり、リーダーになった人の意向に合わないと居られなくなるという傾向があるようです。
水村教授:はっきりとは申し上げられませんが、日本では調整機能があった方が良いと思います。私も自分の住んでいるマンションの管理組合役員や大規模修繕委員をやりましたが、スウェーデンでコレクティブハウスが実現する要因の1つは、ワークライフバランスであると思います。時間に余裕があるので、住宅の運営に、嫌々ではなく関わることができるのだと思います。日本ではワークライフバランスを外側からコーディネートする仕組みが必要と考えています。一方で、自分に責任があるという感覚が、高齢期に若さを保つことにつながるのではないでしょうか。スウェーデンのコレクティブハウスでも揉めごとはありますが、スウェーデン人は個人主義的なところがあり、ドライな側面もあります。日本では中立的な立場で調整する人が必要かもしれません。
成熟研委員:スウェーデン男性はシャイな人が多く、家事にあまり関わらないと聞くことがあります。コレクティブハウス住民の3分の1が男性とのことですが、男性のコモンミール参加は、どういう状況にあるのでしょうか。コモンミールの日本での事例が、もしあれば、教えて下さい。
水村教授:北欧では女性の社会進出割合がとても高いということがあり、男性の家事労働も一般化しています。個人の価値観も関わってくることで、もちろん料理をしない男性もおられますが、やるべきことはすぐやるというフットワークの軽さと、ワークライフバランスも関わって、仕事が大変だから家事労働はしないということは成立しないようです。スウェーデンでは男性も育休をとらなければならず、ベビーカーを押している男性が集まって食事をとっている場面も見かけます。コレクティブハウスでも男性が進んでパンやケーキをつくることがありますが、入居希望者は女性が多い傾向はあります。奥さんに連れられて来た男性が、来てみると面白いということで、コモンミールに積極的に関わるようになるというケースもあります。単身男性では、そうした人とのつながりが自分にとって大事と自覚されて入居される方が多いです。多世代型では、父子世帯や、お子さんが数人おられるお父さんという方がおられます。多世代型で良いと思ったのは、親が食事当番で、子どもが傍でお手伝いしていることがあり、それが食育や社会教育という観点からも有効ではないかと考えています。
成熟研事務局:私の娘はフィンランドの現地校に通ったのですが、日本のように男性は技術、女性は家庭科ということはなく、小学生の時から男性も料理をしているそうです。
高齢者住宅協会:日本のサ高住では、居住者が調理をして、やけどをしたり、指を切ったりすると、住宅運営者が事故報告をしなければならないというきまりになっています。スウェーデンはどのような状況でしょうか。元気な高齢者が入るような住宅でも事故対策のきまりはあるのでしょうか。10年や20年先を見据えて、日本の高齢者住宅はどの方向に進んで行けばよいのか、アドバイスをいただきたいと思います。
水村教授:日本の場合、食中毒のこともあり、食に対してとてもセンシティブな面があります。コレクティブハウスでの食中毒対策や衛生のことを伺ったことがあるのですが、気候も関係していて、食中毒はあまり起こらないようです。また、スウェーデンの人々の危機意識が日本とは違うと感じます。スウェーデンでは森が近いので、学校教育で森の中で火をおこしたり、ナイフを使ったり、天体で方向を見定めたりといったサバイバル術を習います。リスク分散のための技術は身につけておくという文化があって、日常災害はあまり気にしない面があるようです。そこが日本で色々なサービスを取り入れる上でのハードルになっているようにも思います。一方で、コレクティブハウスに居住できる限界は何かについて住民に伺ったことがあるのですが、老衰や末期がんの場合、居住継続は可能であるが、認知症で警察沙汰や火災を起こしたときはグループホームへの移住について、家族を呼んで話し合うそうです。スウェーデンは、事故に対しては自己責任という社会ではないかと思います。
成熟研吉田座長:日本のサ高住でも、これからは、「ここは自己責任」とする選択肢のあるやり方が生まれるかもしれません。


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