「高品質低空飛行」というライフスタイルの説得力
昨年、首都圏から熊本のくたびれた町屋に引越して日々それを改造しながら住み着いている30代カップルの話を聞く機会がありました。あまりに楽しげに暮らしているので、パッと見は学園祭的なノリのように思えてしまうかもしれませんが、首都圏から縁もゆかりもない熊本のしかも廃屋寸前の町屋への移住です。相当な決断であったことは間違いありません。そのことを尋ねると、とてもきっぱりとした答えが返ってきました。「僕たちの目指しているのは『高品質低空飛行』というライフスタイルです」と。「若いうちは良いかもしれないけど、もう少し将来のことを考えた方が良いのではないか」などと言ってくる年長者もいるようですが、「経済が全く成長していない時代に生まれ育ち、先行きのはっきりしない時代に生きている自分たちは、成長経済下で生まれ育ち、給料も右肩上がり、年金の心配もないような、そうした年長者の方々よりはずっと真剣にこれからの人生を考えていると思います。その上での『高品質低空飛行』ライフスタイルという結論なのです。」と、これまた気持ちが良いほどきっぱりした発言でした。
この熊本のカップルにお会いした折には、時代の先端を行くとても珍しい方々とお会いできたと思っていましたが、今回ふるさと回帰支援センターでお話を伺って、そう呼んでいるかどうかは別として「高品質低空飛行」系のライフスタイルは、既に若い世代の中で一定の広がりを見せていること、そしてそれを支援する社会的な仕組みも各地でできてきていることを知り、改めて時代の大きな変化を感じずにはいられませんでした。
「定住」でなくて良いという考え方、「半農半X」や「多職」という働き方のコンセプト等々、そうした時代の変化を象徴する態度や言葉はとても新鮮で魅力的です。国内に800万戸以上もの空き家があるというストック過剰時代には、あくせくと新築に精を出し突っ走ってきたこれまでの時代とは異なる豊かさが可能性としてはあり、それを現実のものにする新しいライフスタイルがそこここで姿を現してきているのだと思います。時代の流れに身を任せてきた私のような世代の者も、もう少し自分のライフスタイルの可能性について考えるべきだし、きっと面白く考えられるはずだと思わされる取材になりました。
(松村秀一)
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